UFOと砂浜

U FOと砂浜

「やっときてくれた」


 え? え? 誰この人?

 あたし、南マナは七里ヶ浜高校に通うJKだ。


 夜の砂浜を歩いていたら、マスコットみたいな雰囲気のお兄さんエイリアンがやってきた。

 ただし注意すべきは、その背後にうっすら輝く未知との遭遇型UFO(に見えるもの)があることだ。


「あ、あなたは誰?」

「僕、太陽系にレジャーに来ていたはずが。迷い込んでしまいましてん」


 怪しすぎる方言で話しかけられる。


「そもそもなぜ言語が理解できるの?」


「まあそこは発達した知的生命体特有のなんちゃらでして。故障を治すのに窒素と酸素が必要で、ついでに硬い重力地盤も欲しくて。こちらの星に寄らせてもらいましてん。お邪魔はしません。サクと呼んでください」


 いちおう敵意はないらしいぞ。


 あたしはいちおう受験生ということになっている。

 パパの時代は浪人してワンチャン狙いで有名大学ねらうなんて贅沢をする民も多かったと聞くが、とうぜんそんな余裕はない。


 本番によわい自分のメンタルを知るからこそ、指定校推薦を狙ってはいたのだが。一学期の通知表の結果に打ちのめされていた夜だったのだ。

 なんの義理もない宇宙人に構っている余裕などないんだが……構ってしまったのはつまり現実逃避ってことだ。




「……という状況なのよ〜」

「ふんふん。それでマナはどないするん?」


 邂逅から三日後、サクの不思議な話しやすさから、あたしは人生相談してしまっていた。


「いや。するしかないでしょ? 勉強!  むしろこんなことしてないで!」

「未開星の処世も大変なのやねえ」


 自分の将来をかけた格闘を未開の一言で切られるのはムカつくが?

 実際あたしの妄想の中でも、文明が進めばこんな勉強いらなくなるはずだと思っていた。

 なので思わず同調してしまった。


「あんたなんかにわかるもんか! 幼稚園の頃からお受験ほのめかされて。なまじ学歴勝者の両親なんて持つからこうなる。だけどあの人たちは一つも教えてくれなかったよ。ちっぽけな高校生活なんかじゃなくて、ここで出会える人達からどれだけ貴重な真実を見る目を貰えているか! あんたたちにわかるもんか!」


 一気にまくし立て終わったあたしにサクは複雑な笑いを向けてこう言った。


「その叫びがね。僕らの星で見ることができなくなったものだったんよ。これで個人的な興味から物好きな旅行をしたかいがあった。

 故障のフリももう要らない。僕は大切なものを、マナが仲間からもらったもののカケラをもらったから、ここで帰郷するね」


 轟音をあげてサクのUFOは飛び立ち、一瞬で視界から消えた。


 あたしはサクに言いたいこと、あったのに。



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UFOと砂浜 @acidfolk

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