第6話 ウマシンの新馬戦
今から挽回して勝つ。そのためにもここからは俺が俺の考えでレースを進めることにする。
もうレースは中盤。走るペースが落ち着き、最後の直線に向けて力を溜めている状態だ。
おそらく俺は他馬と大差ない性能。むしろ劣っているかもしれない。血統背景からの推測だがおそらく当たっているだろう。
だけど俺にはチート能力がある。<前世の記憶がある>と言うことだ。
(最内を走ってなるべくスタミナ温存しつつ、ペースが落ち着いているうちに先頭馬群との距離を詰める)
少しだけペースを上げて先頭馬群の後ろにつける。
今後ろから3番目。勝つには前の7頭を最後の直線で抜き去る必要がある。
(今はこの位置でいい。勝負所はもう少し先だ)
虎視眈々と勝負に出るタイミングを待つ。
ここから挽回するなら基本的には2つ。
1つ、脚を温存して最後の直線で剛脚一閃ごぼう抜き
2つ、直線よりずっと早いタイミングでペースを上げて他馬がトップスピードになる前に勝負に出る大まくりと言う戦法。
(それが出来たら苦労しないし、花咲騎手だって諦めたりしないだろう)
2つとも俺がスペックで他馬より強い、またはスタミナや瞬発力を強みとしている時に使える戦法だ。
……多分そんな都合のいいものを俺は持っていない。あるなら花咲騎手は諦めないだろうよ。
そこで俺はトリッキーな作戦を実行――するわけではない。
単純で、誰もが最初にやること、つまり<全力を出す>という作戦でも戦略でもない当たり前のことをする。
これが重要なんだ。競馬では全力を出せずに負ける馬が沢山いる。馬群の中で前が詰まる、コーナーを曲がりきれず外側に膨らむ、位置取りが後ろすぎて脚を余す等、力を発揮できないで負けるのだ。
(逆に言えば、全力を出せればそれだけで実力的に劣っていても勝負になるかもしれないってことだ)
俺は最後のコーナーに入るよりさらに早いタイミングでジリジリとペースを上げ、目の前を走る馬の内側に潜り込む。
ラチ沿いの狭いところでも構わず入り込み、少しずつ先頭との距離を詰める。
(焦らず少しずつだ。他馬が釣られてペースアップしない程度、俺が疲れ過ぎない程度)
意識してスピードをコントロールする。
最後の直線からの瞬発力勝負では負ける。かと言ってその前に無理にポジションを押し上げてスタミナを使ってしまえば直線で脚が止まってしまう。
だからその両方、ある程度の位置までポジションを押し上げてそこからは瞬発力勝負だ。
(最内にいる俺は直線になっても前にいる馬が邪魔で身動きが取れなくなるリスクもある。でも俺の予想ではそんなことにならない。むしろ目の前が開けるはずだ)
最後の直線、全馬がスピードアップし、最後の勝負となる。
俺はその間も最内を無駄なく進む。すると前を走る他馬が全て外側に膨れながらコーナリングした。
目の前には他馬がいなくなり、邪魔がなくなった。
(狙い通り!これは2歳新馬戦なんだ。そんな若い奴らが完璧なコーナリングなんて出来ない。出来ても1頭くらいだと思った!)
俺は中身人間だ。コーナリングも最内ギリギリを通るんだと意識して走っている。他馬よりコーナリングが上手いのは当然だ。
しかも多くの馬は直線に入ってからアクセルを全開にするのでトップスピードになるのに時間がかかるが、俺はジリジリペースを上げて直線入ってすぐトップスピードに乗れるようにしていた。
俺は最短コース、即座にトップスピード。ポジションは予定より後ろ。
他馬はコーナーで少し外側に膨れた、これからトップスピードにする、ポジションはいい感じ。
という状況が出来上がる。中身人間だからこそできる120点のレース運びだ。
(後は強すぎる馬がいなければいいが)
競馬には不利なんてものともしないくらいつよい馬がいる場合がある。
特に新馬戦は後のG1を勝つ馬と未勝利で終わってしまう馬が同じレースで走ることになるのだ。
つまり今ここに後のG1馬がいてもおかしくないのである。
しかし、それは多分無いと思っている。パドックで見た単勝オッズ。これでズバ抜けた人気馬がいないことは確認済み、むしろ人気がかなりバラけていた。
下馬評で強いと噂されるような馬はいないと言うことだ。もちろん評価されてない怪物がいる可能性はあるが。
(後はゴール目掛けて根性で走るだけだ)
コーナリングだけで先頭に立つことができた。ここから瞬発力勝負。
後は自分を信じて駆ける。新馬戦が決まってからと言うもの、俺は自分の体をうまく扱うことに焦点を当てて走力を強化していた。
フォームを正し、無駄を減らし、馬の体を意識して走った。
その成果を今こそ出す時だ。
駆け抜ける。
血統に恵まれなかった。評価してもらえず、セレクトセールでは驚愕の安値。オーナーには考えられないくらい放置されてきた。挙句に新馬戦で騎手が諦めてしまうという異常事態だ。
それでも
(俺が勝利を諦める理由にはならない)
心臓がうるさい。観客の歓声も他馬の足音も聞こえない。他馬の様子なんてわからない。
(勝ちたい!)
俺は今、自分にできる全力で勝利を目指した。
そしてゴールラインを通過。
タイム 2.05.5(2分5秒5)
勝ったのは
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