第5話──魔女たちの宿命



アリアとフレアは、戦火に揺れる大地を旅していた。

村々では飢えや病が広がり、人々はわずかな望みに縋るように二人を迎えた。

アリアは癒しの歌で人々を包み、フレアは炎で暖を与え、荒れ果てた土地を再び耕せるように焼き清めた。


だが、そんな彼女たちの歩みの先で出会う魔女たちは、皆それぞれに深い苦悩を抱えていた。



最初に現れたのは、氷の魔女ゼロ。

透き通るような蒼い瞳と銀髪を持つ少女は、町外れの十字架に縛りつけられていた。

冷気は彼女の周囲を凍らせ、住民たちは恐怖と好奇心の入り混じった視線を向けていた。


「……止められない……! 私は争いたくないのに……!」

涙ながらに訴えるゼロの声は、誰の耳にも届かない。


アリアのタクトが空を切り、旋律が広がる。

「ゼロ、あなたは優しい魔女よ。力は人を傷つけるためじゃない。自分を縛るのは、もう終わりにしましょう。」


旋律に導かれるように氷は解け、ゼロは泣き崩れた。

「……ありがとう……。私も……誰かを守りたい。」



次に出会ったのは、雷の魔女エレノア。

黄金の髪に雷光のような鋭い瞳を宿した彼女は、戦場の真ん中で兵器のように利用されていた。

彼女の放つ稲妻は敵を薙ぎ倒し、兵士たちは歓声を上げる。


「……これが誇りの果てなの? 私は雷を、こんな風に使いたかったわけじゃない!」


その叫びに、アリアは真っ向から答えた。

「誇りを壊しているのはあなたじゃない。あなたを縛る者たちよ。

 本当の雷は、護るためにあるんでしょう?」


エレノアの瞳が大きく見開かれ、雷鳴のような笑いが漏れた。

「……面白い女ね。いいわ、あんたに賭けてみる。」



大地の魔女アイリスは、領主にその力を奪われ、荒地を耕すどころか戦場に大地を突き立てさせられていた。

天空の魔女フィーナは、視界を兵器にされ、空からの索敵に苦しんでいた。

そして、時の魔女クロエは──。


彼女だけは誰にも縛られてはいなかったが、未来を見通す力に自ら囚われていた。

「アリア。……あなたの結末を、私は見ている。」

「なら言ってみなさい。私は逃げない。」

「あなたは命を贄に歌い、世界を変える。」


アリアは微かに笑みを浮かべた。

「そう。ならその未来を、私の意思で選んでみせる。」



一人、また一人と解き放たれた魔女たち。

彼女たちは皆、心優しく、人を救いたいと願っていた。

だが世界はその力を恐れ、欲し、そして戦に利用していく。


アリアの胸に強い決意が芽生えていた。

──掟を破ってでも、人を癒す。

その選択が、やがて世界を揺るがす道となることを知りながら。

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