第6話──戦火に囚われる魔女たち



噂は広がっていた。

「魔女を従えた国は必ず勝利する」と。

その言葉は王や将軍たちの耳に届き、欲望と恐怖が結びついて、戦争の炎はさらに勢いを増していった。



ゼロは再び捕らわれ、氷嵐を無理やり戦場に解き放たされた。

「いや……やめて……! 私は凍らせたくない!」

彼女の悲鳴は空しく、町を覆った氷が兵士たちを飲み込んでいく。


エレノアは雷鳴と共に駆り出され、敵陣を破壊させられていた。

「私の誇りは……こんな命令に従うためじゃない!」

だが稲妻は止まず、焼け焦げた匂いが戦場を覆った。


アイリスの大地は砲台のように隆起させられ、

フィーナの視界は軍の斥候に利用され、

クロエの未来視すら将軍に強制されて吐き出されていた。


皆、心優しき魔女のはずだった。

だが、その力は戦火を拡大する鎖に変わっていた。



アリアとフレアは、荒れ果てた大地を見つめていた。

血と泥に塗れた戦場。

倒れ伏す兵士の呻き。

炎で焼け、氷で凍り、雷で砕かれた土地。


アリアは唇を噛みしめ、紫の瞳を鋭く光らせた。

「……これが人間の選んだ未来なのね。

 なら私は、魔女として選ぶわ。掟を破ってでも。」


フレアが低く呟いた。

「アリア……あんた、本気か?」


アリアは振り返りもせず、まっすぐに言った。

「ええ。本気よ。私は“癒しの魔女”なんかじゃない。

 ──世界を変えるための、魔女よ。」


フレアは拳を震わせ、苦笑に似た声を洩らした。

「……ほんと、どうしようもない奴だね。

 でも……嫌いじゃない。」



その夜、クロエがアリアのもとを訪れる。

彼女の瞳は、未来を見すぎて疲れ切った影を宿していた。


「未来は動き始めた。

 アリア……あなたの歌が、戦争を終わらせる鍵になる。」


アリアはかすかに微笑んだ。

「そう。なら歌ってみせるわ。

 たとえこの命を代償にしても。」



やがて戦火はさらに拡大していった。

人々は「聖女アリアがいれば世界は救われる」と口にしながら、

その存在すらも戦の道具にしようとしていた。


だが、アリアだけは知っていた。

──救いは誰かに強いられるものではない。

それは、自らの意思で選び取り、与えるものだと。


その決意は、彼女の胸に確かに燃え上がっていた。

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