第6話──戦火に囚われる魔女たち
噂は広がっていた。
「魔女を従えた国は必ず勝利する」と。
その言葉は王や将軍たちの耳に届き、欲望と恐怖が結びついて、戦争の炎はさらに勢いを増していった。
◇
ゼロは再び捕らわれ、氷嵐を無理やり戦場に解き放たされた。
「いや……やめて……! 私は凍らせたくない!」
彼女の悲鳴は空しく、町を覆った氷が兵士たちを飲み込んでいく。
エレノアは雷鳴と共に駆り出され、敵陣を破壊させられていた。
「私の誇りは……こんな命令に従うためじゃない!」
だが稲妻は止まず、焼け焦げた匂いが戦場を覆った。
アイリスの大地は砲台のように隆起させられ、
フィーナの視界は軍の斥候に利用され、
クロエの未来視すら将軍に強制されて吐き出されていた。
皆、心優しき魔女のはずだった。
だが、その力は戦火を拡大する鎖に変わっていた。
◇
アリアとフレアは、荒れ果てた大地を見つめていた。
血と泥に塗れた戦場。
倒れ伏す兵士の呻き。
炎で焼け、氷で凍り、雷で砕かれた土地。
アリアは唇を噛みしめ、紫の瞳を鋭く光らせた。
「……これが人間の選んだ未来なのね。
なら私は、魔女として選ぶわ。掟を破ってでも。」
フレアが低く呟いた。
「アリア……あんた、本気か?」
アリアは振り返りもせず、まっすぐに言った。
「ええ。本気よ。私は“癒しの魔女”なんかじゃない。
──世界を変えるための、魔女よ。」
フレアは拳を震わせ、苦笑に似た声を洩らした。
「……ほんと、どうしようもない奴だね。
でも……嫌いじゃない。」
◇
その夜、クロエがアリアのもとを訪れる。
彼女の瞳は、未来を見すぎて疲れ切った影を宿していた。
「未来は動き始めた。
アリア……あなたの歌が、戦争を終わらせる鍵になる。」
アリアはかすかに微笑んだ。
「そう。なら歌ってみせるわ。
たとえこの命を代償にしても。」
◇
やがて戦火はさらに拡大していった。
人々は「聖女アリアがいれば世界は救われる」と口にしながら、
その存在すらも戦の道具にしようとしていた。
だが、アリアだけは知っていた。
──救いは誰かに強いられるものではない。
それは、自らの意思で選び取り、与えるものだと。
その決意は、彼女の胸に確かに燃え上がっていた。
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