ソシャゲ転生~主人公不在の世界にはバッドエンドだらけ~
裕道 麩葱
Prologue『飛ぶ空を失った鳥たち』
第一話『紡がれぬチュートリアルの先で』
――ハゴロモ島、D3ブロック
――浜辺に凄まじい量の紙のマニュアルを抱えた少女がいる
《???》
「あ、こっちですよ~。あなたが『コマンダー』ですね。歴戦の『変転者』から詳しい指示をもらえるの助かりますー。えっと、名前はたしか……何だっけ……?」
――プレイヤー入力中……
《尾灯 桃》
「そうそう、《――》さん! 忘れてないない。……あ、サポートの
――挨拶を交わしたのも束の間、手持ちのデバイスが警告音を鳴らし、島のサイレンが響く。
《尾灯 桃》
「わわ、コマンダーの赴任直前だっていうのにいきなりDoG反応が! これは……超小規模群、野良ってやつですね! にしてはちょっと妙な反応が……まぁいっか、せっかくだからコマンダー、戦い方のおさらいをしましょう! えっとたしか資料の394ページに……」
――今の自分に、DoGと戦う力はない。彼女たちの力が必要だ
《尾灯 桃》
「えと、まず最初に生徒を編成します! 本人の希望もしくはD&Dの推薦に応じた生徒が、コマンダーの指揮下の元に組織や所属に関係なく配属されるみたいです! ……生徒の詳細は、都度サポートの生徒の端末に送信する……え、あ、ホントだ」
――面倒事を押しつけてしまっているみたいだね
《尾灯 桃》
「いえいえ、仕事ですからっ。本来配属には色んな手続きやコストが必要になるんですケド、今回は向こうで負担してくれてるみたいです。コマンダーの仕事ぶりが評価されればさらに多くの生徒が配属されてくるみたいですね! 早速、配属された生徒を確認しましょう! 桃までドキドキしちゃいますっ」
――なるほど、この子たちと一緒に戦うのか。今まで戦うのが専門だったが、指示というのが上手くできるだろうか
《尾灯 桃》
「さぁ、さっそく戦いましょう! ご存じだと思いますが彼女たちには得意な役職が――」
☆
彼は一人、砂浜に立つ。
甲高いサイレンの音がする。奴らが来る。
人々の夢を奪う闇がまた、来る。
『嘘ですよね……?』
縋るような、相手への批判を孕んだような過去の自身の声が脳裏で反響する。
『くそ……くそっ!!』
行き場のない悲哀を、思い出す。
突然白と黒が反転してしまったような呆然と、立ち尽くしているだけで身につけたものが剥がれていくような――夢が潰えていく感覚を、思い出す。
『俺たち、どんなことがあってもこれまでやってきたんですよ!! 何とかならないんですか!!』
『……すまない。できないんだ』
失意の末、肩を抱き合いながら泣き咽ぶ同胞たちの姿。
多くの努力を重ね、同じユニフォームを着て心を一つにしたものたちへの仕打ちが、何故あれだったのだろうか。
『どうして。どうして俺たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだ』
誰かがそう言った。
理由なんてないんだ。
罰でも何でもない。
ただの理不尽でしかないんだ。だから苦しいんだ。
そうなる前に誰かに助けて欲しかった。ヒーローのような誰かに。
『みんな……みんな、同じ目に遭ってしまえばいいのに』
それだけは言ってはいけないと、友を諫める言葉は、震えていた。
『変転者にならなかったら……今頃どうしてたんだろう。友達と笑い合って、十年後には覚えてないような楽しい会話をしてたのかな』
記憶が巡る。
所変わって、瓦礫の中に立ちすくむ彼女の面持ちは、ただの子どもだった。普通に生きる、そんな簡単なはずの夢すら奪われた子どもの姿は、惨かった。
『どうして……私が何か悪いことしたのかな?』
「理由なんて――ないんだ」
病室で窓の外を虚ろに眺める彼女の姿が、悲しみを埋め合うように身を寄せて泣く同胞の姿が……夢を奪われたものたちの姿が、次々と頭に過ぎる。
――甲高いサイレンの音がする。奴らが来る。
彼らの飛び立つ空を覆い尽くしたあの暗雲が、また、来る。
☆
……少年が転生する前の世界に、ヒーローはいなかった。
世界の暗雲を一瞬にして晴らしてくれる英雄は、多くの人間がどれだけ願おうと現れなかった。
そして、この世界にも、ヒーローはいなかった。
世界を救う運命を任されたプレイヤーの場所に、誰もいなかったのだ。
ヒーローは、いなかった。
だが。
どちらの世界にも――誰かの夢を守ろうとする『戦士』たちは、確かにいた。
ソシャゲ転生~主人公不在の世界にはバッドエンドだらけ~ 裕道 麩葱 @yudouhunegi
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