第33話 自白②
窓の外では、オレンジ色の陽がビルディアの塔の群れに沈みかけている。
大きな木製の机。上には水晶の照明と、巻物やインク瓶が散らばっている。
その机にギリーが座り、対面にレム。ケセとパサが静かに漂っている。
「しかし貴様は、取り調べとなると妙に威圧感があるな。ただでさえゴーレムはでかいというのに」
「犯人かもしれねえ、あるいは重要なことを隠している相手には揺さぶりをかけるんだよ。そうすればボロを出す」
「なるほど。覚えておこう」
「ちんちくりんには無理だからやめとけ」
「ちんちくりんとはなんだ! 敬意が足りぬ!」
ギリーが机をバンバンと叩く。
(そういうとこだよ……)
レムは心の中で唱える。ケセとパサが慌てて机の上の物が落ちないよう支える。
「まあリシェルのネモリが手に入った以上の収穫はあったぜ。サダナは十中八九、あの男を知っている。そしてリシェルが生きているのも知っていた」
「なんだと!?」
「まだ確証はねえ。さて、どうやって証拠を固めたもんか……」
そのとき、廊下から足音がする。
ドアが勢いよく開かれる。
パンザロールが駆け込んできて、息を荒げながら叫ぶ。
「ギリー捜査官、レム!」
「なんだ、騒がしい」
「何かあったのか?」
パンザが肩で息をしながら、紙の束を抱えている。
「さきほどサダナ子爵の取り調べを行ったそうだな?」
「そうだぞ! レムが子爵を脅して秘密をしゃべらせ……」
「脅してしてねぇよ」
パンザがひとつ息を整える。
「何を話したか知らないが……サダナ子爵が」
そして息を飲む。
「焼死体になっていた男を殺したのは自分だと、自白した」
ギリーとレムの息を吸う音が同時に部屋にこだました。
「なんだって!?」
「ばかな!」
空気が張り詰める。
窓の外の光は、オレンジ色に染まりつつあった。
「今、部下の捜査官が詳しく聞いているところだが……町のチンピラがミナとの浮気で子爵から金をゆすり取ろうと近づいてきた。あまりにもしつこいので、金をやると言って呼び出して殺したそうだ……」
「おおお! ならば解決ではないか! レムの取り調べで逃げ切れないと思ったか」
「その男の名前は?」
「知らないそうだ」
ドシン、メキッという大きな音と振動にギリーとパンザロールが驚く。
床に穴が開いている。レムの拳が突き刺さっていた。
さらにレムは自分の頭を掴み、強く握る。
ごり、と土が砕ける音。細かい破片が机に落ちる。
「レム!? 頭が!」
「チンピラが強請ってきたからって殺しただと? だったらなぜリシェルの死体に偽装する必要がある? リシェルはなぜ消えた? なぜまだ現れない? なぜミナの家に泊まった? わざわざ屋敷で殺して、しかも屋敷ごと燃やした理由は? ふざけるな! 何もかもつじつまが合わねえだろうが!」
レムが立ち上がり、パンザに詰め寄る。
石床がきしみ、ケセとパサが慌てて壁の方へ逃げる。
「それを今、詳しく聞いているところで……」
レムの拳が震え、また床を叩くこうとする。
ギリーが杖を振り、レムの身体から蔓が伸び、その手をすんでのところで止めた。
「何しやがる!?」
「吾の部屋を壊すな!」
レムはバランスを崩し、そのまま床に倒れ込み、起き上がる。
「サダナは嘘をついてる……俺の勘が、そう言ってる」
パンザロールは口に手を当てる。
「私も同感ですが……しかし、自白した以上、その線で話を聞かないわけには」
「わかってる。あんたはそっちをやればいい。俺たちは別で動く」
ギリーが杖を構えてレムを指す。
「レム、今、勘といったな。貴様は吾に見込みで動くなといったが、勘は違うのか」
レムが鋭い目でギリーを見る。
ギリーがびくりと肩をすくめる。
だが、次の瞬間、レムの顔に苦笑が浮かぶ。
「取り乱しちまったな。まさか、お前に言われるとは。言う通りだ。だから……俺たちはサダナの言っていることが嘘だという証拠を突きつける必要がある。あいつが観念して知っていることを全て話す気になるほど、徹底的で、完膚ねぇほどのな」
「なんだか、喧嘩をしているみたいな言い方だな」
「かもな。ビルディアでは殺人は死刑。サダナはそれでも、自分が罪を背負いこんででも何かを隠そうとしてる。つまり俺たちを、捜査局を欺こうと大勝負に打って出たんだ。だが、そうはさせねえ。俺は必ず、真相を明らかにして、犯人を捕まえる」
レムの目に赤黒い光が、閃光のように光った。
「ふむ。だが、サダナが自白したということは……パンザロール、これはまずいのではないか」
「何?」
パンザが深刻な面持ちで口を開く。
「魔法律では、罪の告白は真実として裁かれます。自白した以上、我々は大審院に報告しなければなりません。捜査局長も早急に伝えよとのお達しがありました。つまり、サダナを裁く審理が始まることになります」
「なんだと!? それはいつだ」
「今日、大審院に一報を送ります。審理は慣例に従い七日後になるでしょう。このままでは、サダナを犯人として我々は報告書を提出しなければなりません」
レムが立ち上がり、パンザロールに詰め寄る。
「七日? なんだそのスピード審理は? 日本の裁判所と足して割れ!」
ギリーの杖が間に割って入る。
「またわけのわからんことを……貴族の事件審理は決まり事が多いのだ。しかし局長の指示となると、吾でも止められん」
「そうですね。もしギリー捜査官たちが別の事実を提示するなら、それまでに証拠を押さえ、サダナの自白を覆す必要があります」
パンザロールが困った表情で頭頂部をかく。
「くそが! 例の男の素性もまだわかってねえのに……七日だと?」
その時――さらにノックの音がした。
息を切らして、若い捜査官が飛び込んでくる。
「パンザロール捜査官!」
「なんだ?」
捜査官が震える手で、死んだ男の映ったネモリを差し出す。
「この男を知っているという者を見つけました!」
ギリーやパンザロールよりも早く、まるでゴーレムの身体の重量などないかのように動いて、レムの手は捜査官の襟首をつかんでいた。
「教えろ! そいつはどこにいる!?」
〈大審院の審理まで――あと7日〉
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