第29話 再捜査③

木漏れ日がまだらに差す林の中。

焼け跡から少し離れた場所に、ひときわ大きな樹が立っている。

根元は苔むし、地面には白い灰が風に流されてたまっていた。

遠くで鳥の声、風に葉が擦れる音。

ギリーが木の根元に目をつぶって横たわっている。

パサがふかふかと膨らみ枕になり、ケセは団扇のように形を変えて風を送っている。

頬に当たる風が心地よさそうだ。

「ふわぁ」

ギリーがゆっくり目を開ける。

「起きたか」

ギリーの視界に、胡坐をかいたレムの姿がある。

赤土の体に木漏れ日が落ち、肩の双葉が揺れている。

ギリーが上体を起こす。ケセとパサが元の形に戻り、ギリーの頭の周りをふよふよと漂う。

「ふう~、やはりあの手は強引すぎるな。他者の魂に魔力を注ぎ込むなど反発が起きて当たり前だ。抑え込むために魔力を消耗し過ぎる」

ギリーはそのまま両手を挙げて背を伸ばした。

「あれは誰でもできるもんなのか?」

ギリーがむっとして眉を寄せる。

そばに置いてあったネブリカを手に取り、頭にかぶる。影が顔を覆う一瞬、ギリーは寂しそうな顔をしたが、すぐにレムを鋭くにらみつけ、勢いよく指さした。

「できるわけなかろう! ネブリカ自体、吾の作った道具なのだ! できそうだから思い付きでやってみたら、できたのだ! 吾は天才だからな!」

「ん、元気そうで何よりだ」

レムがわずかに口角を上げ、そして屋敷跡の方を指さす。

林の向こう、焦げた石垣の残骸が見える。

「死んだ奴の今際の声ってのもおかしな言い方だが、ネブリカに入っていた声は、屋敷の裏口から入ったと言っていた。厨房の勝手口のことだろう。死体はそこにあったしな」

「裏口から呼び出されて、そこで殺されたのか?」

「おそらくな……そして来た理由は、金を受け取るため。何の金かはまだわからねえ」

ギリーが腕を組み、ため息をつく。

「それにしても、吾が出したのは大した金ではなかったのだがな、奴はずいぶんがめつかった」

「結構な大金に見えたが……」

レムはぎっしりと金貨のつまった袋を思い出す。

「あの程度では良い使用人の一人も雇えんぞ! 長く働いてもらうには一年であの倍は出さねばならん」

「基準がおかしいぜたぶんそれは、普通の人間には十分大金だ……ところで、あの金は、お前のポケットマネーだったのか?」

「そうだが? それがどうした?」

(世間ずれしてやがる……問題はそれが貴族のお姫様だからなのか、単にこいつがクソガキだからなのか……)

「何か言いたげだな」

ギリーがじっとレムを見る。レムは話を次に移すことにした。

「もう一つ、あの男は重要なことを言った。裏切り者は、サダナと、"あの女"だと」

「そうだ! 女……? 全く、またわからんやつが増えた」

「女に関しては見当は付いてる。確証はねえがな」

「なんだと? 言え! 貴様は吾の助手だ、隠し事は許さんぞ!」

ギリーが身を乗り出す。レムは頭をかいた。

「別に隠してねえよ。忘れたのか? 焼死体が男だと分かった時点で、行方の分からない女が一人できただろうが」

「え……ああ! まさか」

ギリーの顏が驚きに変わる。

「ああ……リシェル夫人だ」

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