第23話 ネクロマンサー②
倉庫の吹き飛んだ屋根から斜めに陽が射し込む。
木片や瓦礫が散乱する床。レムは焼死体に覆いかぶさってなんとか証拠品を守っている。
モーリーとギリーは――いつぶりの再会かわからないが――久しぶりの再会を喜び抱き合っていた。
ギリーはモーリーに軽々と抱え上げられ、嬉しそうに笑っている。
「早かったな! 確か辺境の廃村で死体復元の研究をすると言っておったのに」
「 あんたに教えてもらった高速箒飛翔魔法のおかげですぐだったよ。確かに息継ぎは苦労したけどね」
レムはその様子を横で見ながら立ち上がり、自分の身体についた瓦礫を落とす。
「おい、あんたがモーリーか?」
モーリーが振り返り、眼鏡の奥で好奇の光を放つ。
「急いで来てもらったのはありがてえが、死体を吹き飛ばすところだったぞ」
「ゴーレムが……しゃべった! ちょっと待って!!」
モーリーはギリーを床に投げおろすと、レムの方に駆け込んでくる。
その瞳は観察者のそれ――好奇心と理知が入り混じる輝きだ。
レムの胸板に手を当て、眼鏡をくいと直し、じっと見る。
「これ、人の魂が入ってるのね?」
「な……」
レムは思わず声を挙げた。彼の中に人の魂がいると見破った、初めての人間だった。
「一目でわかるか!? さすがだな、モーリー!」
モーリーは笑みを浮かべ、ギリーを再び抱きしめる。
「凄い凄い凄い! やっぱりあなたは天才だわギリー!」
「まあまあ、真実を言っても仕方ないぞ」
ギリーは頬を赤らめ、言葉とは裏腹に珍しく素直に照れている。
レムが半眼になりながらつぶやく。
「おいギリー捜査官。俺のことは、このおんn……モーリーには知られてもいいのか」
「モーリーはネクロマンサーだからな。うるさいことは言わん」
モーリーがふふんと鼻を鳴らし、眼鏡をくいっと直す。
「私は死体を操る魔法の研究、ギリーは魂を呼び出す魔法の研究、二人合わせて蘇生コンビなんて言われてたわね。ま、蘇生なんて禁忌だし死刑ものだし、やってないんだけど。まあでもそんなわけで、私たちはすごく気が合ったの。でも学院の中では避けられていたというか……」
「畏怖されていたのだ!」
ギリーが胸を張り、杖でドンと床を鳴らす。
(キワモノの似た物コンビってことか……ギリーは確か12歳、こっちは20代半ばってとこだろうが、ギリーと気が合うってことは……大丈夫か?)
レムが二人を見ていると、ケセとパサがふわっとモーリーに向かって飛ぶ。モーリーの表情が輝く。
「ケセとパサー! 久しぶりねー」
モーリーが小さな精霊たちをなでると、彼らはくるくる回って喜びの返事をする。
更にモーリーはケセとパサをむんずとつかむと、ギリーにふわりと投げる。
ギリーもそれを受けては投げ返し、キャッチボールのように遊び始めた。
「なつかしいわねー。キャッチ毛玉」
「学生以来だな!」
黙って見ていたレムは、ついに痺れを切らして手を差し伸べる。投げかわされるケセとパサがレムの両手にぽすっぽすっと収まった。
ギリーとモーリーが顔に?を浮かべてレムを見る。
「話を……始めていいか!?」
モーリーとレムが焼死体の前に並び立つ。ギリーは相変わらず一歩引いたところで、柱の陰に隠れ、死体を見ないように顔を半分背けている。
その様子を見てモーリーはにこりと笑う。
「ギリーったら、魔法捜査局に入ってもまだ死体が苦手なの?」
「放っておけ!」
「知ってる? ゴーレムさん。ギリーは魂の研究をしていたから、病気で亡くなった人の魂がどうなるか観察しないといけなかったんだけど、死体ってすぐに腐っちゃうでしょ? その臭いが苦手で、我慢してるうちに、死体を見るとゲェゲェするようになっちゃって……頑張り屋さんなのよね」
「喋らんでいい、そんなこと!」
(この魔女っ子がここまでタジタジになるとは……モーリー、恐るべし)
レムは首を左右に傾け、ミシミシと鳴らす。
「俺の名前はレムだ」
「あらかわいい名前ね。ギリーがつけたんでしょ?」
無邪気に笑うモーリーと目が合い、レムは思わず目をそらした。
「魂は別世界の人なのよね、よろしく」
モーリーが手を差し出す。
レムはわずかに戸惑うようにその手を見下ろす。
「あら、握手はお嫌い?」
「いや……力加減がわからねえんで、怪我させちまうかもしれねえ」
(握手なんて……何十年もしてねえし。……くそが、何やってんだ俺は。この女、どうにも調子が狂うぜ)
レムは結局握手をしないまま、眼下の焼死体を指さした。
「それよりこれだ」
「焼死体ね」
モーリーがさらりと言う。見慣れているどころか、細かく細部を観察するような目の動きだ。
「あんたは死体をたくさん見ている、とギリーから聞いてる」
「そうね。腐乱死体から白骨死体まで、何でも操れてこそ真のネクロマンサー! 私はまだまだひよっこだけど」
「モーリーは魔力こそ強い方ではないが、知識やフィールドワークの経験は相当だぞ」
柱の陰からギリーが口を挟む。
「ありがと」
モーリーがギリーにウィンクする。
その横顔に、レムが少しだけ目を細める。死体を前に機嫌のいい女、ギリーと気が合うのもわかる気がする、とレムは思った。
「あんたから見て、この死体はどう見える?」
「全身きれいに焼けてる。ほとんど骨」
「この死体がどんな人間だったか推測してみてくれ。まずは先入観のない意見を聞きたい」
モーリーが眼鏡を押し上げる。光がレンズに反射する。
「そうねえ。まずわかるのは、獣人や魔族の類ではない、人間種。私やギリーと同じね。体格は大人のもの。年齢は10代後半から、せいぜい60代かな? 太腿に大きな骨折の痕、直した跡はあるけど完全じゃないから、足をひきずって歩いていたかもね。でも歯は揃ってるし、老人ではなさそう」
モーリーは報告書を読み上げるように淡々と述べる。レムの魂のあるところに、にわかに昂揚感が立ち上ってくる。
(こいつは……いけるぜ。それにしても、死体が人間種かどうかの見極めも必要なのかこの世界では……思いつかなかったぜ)
「あとはそうね……顔立ちが整ってる。美形だわ」
モーリーの笑顔が心なしかにやける。
「また見た目の話……他には?」
「他にねえ……私は死体を操る研究はしているけど……死体の研究者ではないからなあ。何か知りたいことがあるの?」
レムがギリーをちらりと見る。
ギリーは怪訝な顔をしてこちらを見返す。
「そうだな……例えば……」
レムが焼死体をゆっくり指差す。
「この死体が……男か女か」
レムの後ろから、「えっ」と小さく声がした。ゴーレムの耳はいい。ギリーが息をのむ音が、後に続いた。
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