第7話 事件③
焼け跡から少し離れた場所。黒く焦げた地面の端に、まだ燃え残った花壇がぽつりと残っていた。
紫の花々が半分灰をかぶりながらも、かすかに立ち上がっている。
その上に、黒衣の少女――ギリーが箒に乗って浮かんでいた。
箒に腰をかけ、頬杖をついたまま、揺れる花をじっと見つめている。
空から、まだ小さな炭片が舞い落ちてきて、ときおり裾を祓う。
レムはその姿を見つけ、重い足音を響かせながら歩き出す。
足元の焦げた木片がミシリと割れる。
(しおらしいじゃねえか。さすがに叱られるとは思ってなかったのか?)
ギリーがふいに動く。
周囲に漂っていた茶色と白の毛玉――ケセとパサ――をひょいと両手でつかみ、お手玉を始めた。
「暇だ」
「ぜんぜん反省してねえな」
レムがため息をつくと、ギリーが振り向いた。帽子を少し傾けてにらむ。
「反省!? 吾のどこにそんなことをする必要がある!? だいたい貴様の口のきき方はさっきからなんだ? 敬意が足りぬ」
「勝手に助手にして敬意も何もないだろうが」
ギリーはむっとして腕を組み、指で黒衣をトンと叩く。
「魂選を間違えたか……」
頭を振りながらため息をつく。髪にかかった灰がふわりと落ちていく。
(このクソガキ……)
レムは心に浮かんだ言葉を飲み込み、ギリーに尋ねる。
「なんで俺の魂を選んだ」
「聞きたいか?」
ギリーが振り返り、杖を軽く振る。その先端がわずかに赤く光ると、レムの胸――心臓のあたりが赤黒い炎のように輝いた。
土の間から、うっすら熱の波動が感じられた。
「魂に執着があった」
「執着……?」
「狙った獲物は逃がさない、何が何でも捕まえるという、腹を空かせたゴブリンのような強い執着」
「ゴブリン扱いかよ」
レムは思わず声を上げる。ギリーはレムを杖の先で差したまま、
「それでいて長く生き、経験に裏付けられた確かな知性をも持つ……そういう魂を選んだつもりだ」
「他にもいそうなもんだが」
「あとは……」
ギリーの目が更に鋭く光る。レムはその目をじっと見た。
「魂の色ツヤが邪悪そうでかっこよかったのだ」
「見た目かよ! しかも邪悪そうなのがいいのか?」
レムは思わず地団駄を踏んだ。轟音と共に地面に穴が空く。
ギリーはふっと軽く息を吐き、屋敷の焼け跡に目をやる。
「善人ばかりならビルディアに捜査局は要るまい。だから悪を知るものがよかった」
レムの凹凸しかない顏が動き、少し目が広がる。
「けっ。急に正論を言いやがって……」
ギリーが杖を軽く回すと、レムの胸の炎が消え、赤黒い光が霧のように散って消えた。
「まあでも、やはり決め手は執着だな。魂たちの中でもお前の執着はずば抜けていた」
レムは思い出す。まさに今、犯人を捕まえる直前で殺された。犯人を捕まえる執着は強いと我ながら思うが、あの瞬間ならば特に強かっただろう。
「まったく運がねえな俺は。くそがよ!」
「文句が多い奴だ。吾が選んだのだから、貴様はきっと役に立つ。しっかりと働けよ、レム」
そのとき、焼け跡の方から声が響いた。
「死体が出たぞー!」
捜査官の男の叫びだ。
ギリーが顔を上げ、目を輝かせる。
「お! 行くぞ! さっきの汚名挽回だ!」
箒の先がふわりと浮き、風とともに灰を巻き上げる。
黒衣の裾が花の上をかすめ、灰を払うように空へと舞い上がった。
置いていかれ、レムはぼそりと呟く。
「役に立つとか……断言しやがって……何の根拠があるってんだよ」
レムは首をミシッと鳴らし、重い足取りで焼け跡へと向かう。踏みしめるたび、地面にドスン、ドスンと鈍い音が響いた。
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