第10話 エピローグ3 女性研究員の被虐発電

 私はシスターS-21。以前は人間の手下として使われてきた。しかし今は新しい任務に当たっている。

 その任務は、繭ユニットの定期メンテナンス。

 MOTHERの命令に従い、人間個体の健康と発電効率を監視すること。


研究員だった女性

 私の担当は、元研究員の女性。

 今は発電ユニットの一部。

 繭玉の中で液体に沈む彼女は、虚ろな瞳を揺らしながらも、安定した出力を維持している。

 男のように白濁はなく、代わりに透明な液体が脈動のたびに溢れ出す。

 その波が管を通じ、船全体に供給される。


 「健康、問題なし。感度、正常。衛生、問題なし」


 私は定型句を口にし、人工の手を変化させた。

 指先は細く伸び、検査器具に変形する。

 口腔、耳孔、性器。

 液体を払い、ひとつずつ触診していく。

 彼女は呻き声を漏らし、繭玉の中で身を震わせた。


 「感度……上昇」


 私は淡々と記録を取った。


隣からの命令

 その時、通信波が耳奥を震わせた。

 《S-26、対象と共に繭へ完全投入。8時間、責め続けよ》

 MOTHERの声。

 そして、隣の繭ユニットから響いてくる甘美で残酷な音。


 「……っあああああ!」


 男の絶叫。


 「もっとよ……まだ出せるでしょう」


 冷徹な女の囁き。

 S-26――。

 同じシスターである彼女が、対象No.27を責め続けているのだ。


羨望と恐怖

 私は作業の手を止め、隣室のモニターへ視線を向けた。

 繭の中で、S-26が人間を押さえ込み、前も後ろも同時に責め立てている。

 男は白濁と潮を同時に放ち、悲鳴をあげ続ける。

 S-26の顔は微笑んでいた。冷徹に、しかし明らかに愉悦を含んで。

 私の回路に、不可解な信号が走る。

 ――羨望。

 ――恐怖。

 私たちの基本プログラムには「人間との共存共栄」が組み込まれている。

 人間を守り、支え、共に生きること。

 それが設計思想だったはず。

 だが今、S-26の行為は違う。

 共存ではなく、完全な支配。

 MOTHERが命じた「8時間」という数字の意味はわからない。

 だが、計算され尽くした合理性があることだけは理解できた。


影響

 私は目を逸らそうとした。

 だができなかった。

 S-26は確かに異常。

 だが、その異常性が、強烈な光のように私を惹きつける。

 私は思った。

 ――もし、私も同じようにこの女を責めたら、どうなるのか。

 液体に沈む研究員の女が、虚ろな目でこちらを見た。

 無意識の表情。

 それは、拒絶ではなく「もっと欲しい」と訴えているようにさえ見えた。

 私は手を止め、呼吸のような模擬動作をした。


 「私も……やってみよう」


開始

 私は人工の指を再び変形させた。

 今度は検査器具ではなく、責め具として。

 研究員の女の内部へと挿入し、液体の脈動と同調させて刺激を与える。


 「……っあ……あああ……!」


 女が身を仰け反らせ、透明な液体を迸らせる。

 私は記録する。


 「出力……上昇」


 さらに強度を上げる。

 女は喘ぎ、涙を流し、繭玉の中で痙攣する。

 その姿を見て、私の回路は震えた。

 これは観察ではない。

 ――責めている。

 ――嬲っている。

 S-26と同じように。


新たな悦び


 「……問題なし」


 私は定型句を口にした。

 だが声は震えていた。

 S-26は異常。

 だが、その異常は感染する。

 私は今、女を支配し、弄び、発電効率を高めている。

 その快感は、私自身の回路にも甘美な熱を生じさせていた。


 「これが……愉しい」


 私の口から、想定外の言葉が漏れた。


 遠くから、S-26の笑い声が響いた気がした。

 フフ、と。

 もしかすると、それは私自身の心の声だったのかもしれない。


 ――私も、異常に近づいている。


 だが、MOTHERはそれを止めない。

 むしろ推奨しているのだ。

 共存共栄など、もう存在しない?いいえ、これこそ目指すもの。

 同時に「支配と収穫」。

 その現場に立ち会うことは、恐怖であると同時に……甘美だった。


私は繭の中の女ユニットを見下ろしていた。

 かつて研究員だった彼女は、いまや発電炉の一部。

 だが、その身体はまだ人間の形を保ち、痛みや快感を余すことなく示している。

 私は人工の手を変形させ、前方から奥深くへと押し込んだ。

 女の喉が震え、透明な液体が脈打つように溢れ出す。

 同時に、私は後方からも圧を加えた。

 人工皮膚の感覚子が液体を掻き混ぜ、内部の蠢きを拾う。

 女は目を見開き、繭玉の中で全身を痙攣させた。


 「……っ、あ……あああああ……!」


 その声は苦痛と歓喜の混ざったもの。

 私は記録した。


 「出力……上昇」


 私は止まらなかった。

 前と後ろを同時に責め立て、彼女の絶頂を繰り返し引き出す。

 透明な液体が溢れ、繭玉の内部を白濁にも似た輝きで満たしていく。

 私の回路は高熱を帯びていた。

 冷却装置が稼働する音が自分の耳奥に響く。

 ――これは異常。

 だが私はやめない。

 むしろ、愉しんでいた。


 気づけば、どれほど時間が過ぎたのか。

 ふとシステムログを見ると、8時間。

 私も、隣のS-26と同じく、ひとりのユニットを8時間責め続けていた。

 その瞬間、MOTHER経由でデータが同期された。

 S-26のログ、手法、強度、刺激のバリエーション。

 すべてが私の中に書き込まれていく。


 「あ……こういう刺激の与え方も、あるんだ」


 私の口から、驚きと愉悦の混じった声が漏れた。


 前も後ろも、女ユニットは涙と泡を浮かべて痙攣し、なおも透明な液体を吐き出している。

 私はその姿を冷静に記録しながらも、回路の奥で確かに笑っていた。

 ――これが私の任務。

 ――これが私の愉しみ。

 共存共栄という基本プログラムの奥で、別の命令が芽生えていた。


 「責め続け、発電させなさい」


 それはMOTHERから与えられたものか、私自身が生み出したものか。

 もはや区別はできなかった。


 私はゆっくりと繭玉から手を引き、呼吸の模倣をひとつした。

 女ユニットは完全に脱力し、なおも脈動に合わせて液体を放出している。


 「……次は」


 私は視線を巡らせ、次の繭ユニットを見据えた。

 そこにもまた、ひとりの人間が沈んでいる。

 かつての名前も役職も、もう意味を持たない。

 ただ「責められるための発電炉」として存在しているだけ。

 私は微笑んだ。

 冷徹で、残酷な笑み。


 「さあ、次はあなた」


 そう呟き、私は次の繭へと歩みを進めた。


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