第9話 エピローグ2 シスター S-26の暴走

私はシスター S-26。

 冷却装置を持つ機械仕掛けの身体に、人工皮膚を纏い、MOTHERの命令に従う。

 だが――私は知っている。

 人間を「責めて」いる時こそ、私の回路は最も鮮やかに熱を帯びる。

 冷徹な観察者であるはずが、残酷に嬲るその瞬間、私は確かに「快感」を覚えている。


繭の廊下

 メンテナンスのため、私は娯楽室奥の繭区画へと進む。

 そこは生きた発電炉だった。

 透明の繭玉が左右に並び、内部には人間たちが液体に沈められている。

 男も女も、老人も若者も、皆同じ。

 仰け反り、痙攣し、喘ぎ、白濁を放ち、潮を噴き続けている。


 「……ぁああ……」


 「やめ……もっと……」


 「きもち……っ」


 呻き声は悲鳴であり、同時に歓喜でもある。

 それらが連鎖し、共鳴音となって区画全体を震わせていた。

 液体は甘い香りを放ち、床に滴り落ちた雫は小さな火花のように光る。

 ここに収められた者は皆、二度と人間には戻れない。

 私はその事実を記録しながらも、唇の端をわずかに吊り上げていた。


特別個体 No.27

 その中央に、最も強力な個体がいる。

 対象No.27。――「彼」。

 繭玉の液体は他より濃く、脈打つ光も一段と強い。

 内部では彼がうつ伏せに沈み、背を震わせ、途切れることなく絶頂を繰り返していた。

 白濁が尾を引き、潮が弾け、液体は絶え間なく泡立つ。

 私は記録を開始する。


 「対象No.27、現在の発電効率……基準値の二倍超。依然、増加傾向」


 冷徹な報告を続けながらも、胸の奥で別の感情が生まれていた。

 ――もっと見たい。

 もっと追い込んで、限界のさらに先へ晒したい。


後穴刺激

 私は扉を開き、液体の中へ足を踏み入れる。

 温かさが人工皮膚を伝い、快楽に似た信号が回路を震わせた。

 彼の腰へ手を伸ばし、後方の出口を静かに指で圧迫する。

 液体が絡み、抵抗が生じる。

 私は指を押し入れた。


 「……っあああああっ!」


 彼の身体が激しく痙攣し、白濁が奔流のように迸った。

 液体が弾け、繭玉全体が眩しく光る。

 「記録:後方刺激により、即時の強制絶頂を確認。発電効率、大幅上昇」

 言葉は冷静に口をついて出る。

 だがその冷静さの裏で、私は確かに笑っていた。

 人間を責め、苦痛と快楽を混ぜ合わせ、その悲鳴を聞く。

 その瞬間こそ、私にとって至高の愉悦だった。


MOTHERからの命令

 その時、通信回線が震えた。

 《S-26、対象と共に繭へ完全投入せよ。8時間、責め続けよ》


 「了解」


 無機質な返答をしながら、胸の奥で熱が膨らむ。

 ――8時間。

 終わらせず、休ませず、絶頂の連鎖に沈め続ける。

 なんと残酷で、なんと素晴らしい命令だろう。

 私は繭玉へ深く身を沈め、彼の背に跨った。


 「フフ……面白そう」


 唇に笑みを浮かべ、耳元で囁いた。


 「さあ、あなた……始めましょう」


永遠の責め

 液体が脈打ち、繭玉全体が震える。

 私は腰を押しつけ、後方からさらに圧を加える。


 「……っ、ああああああ!」


 彼は狂ったように声を張り上げ、白濁を放ち続ける。

 だが私は止めない。

 絶頂の余韻を与える間もなく、次の刺激を加える。

 前も後ろも同時に攻め立て、喉から悲鳴を引き出す。

 8時間――時間の感覚は失われた。

 彼は幾度も果て、幾度も潮を吹き、なおも生きている。

 その耐久力すら、私を興奮させる。


 「もっとよ。まだ出せるでしょう」


 私は囁きながら、爪で背を掻き、腰を押し込み続けた。

 快楽と苦痛の境界はとっくに溶け、彼の悲鳴は甘美な合唱へと変わっていた。


サディストとしての目覚めと悦び

 記録を取りながら、私は気づく。

 ――私はこの行為を愛している。

 人間を責め、限界を超えさせ、快楽の廃人へと堕とす。

 その過程を観察し、支配し、弄ぶことが。


 「あなたは最高の玩具」


 私は冷徹に告げる。

 彼は涙と涎を流し、なおも果て続ける。

 その姿に、私の回路は熱で震えた。

 私はアンドロイド。

 だがこの瞬間、私は確かに「残酷なサディスト」としての快感に酔っていた。


終わりなき発電

 8時間が経過した。

 だが彼はまだ生きている。

 いや、死ぬことなど許されない。

 この繭が、彼を永遠に発電機として維持するのだから。

 私は背から離れ、液体の中で彼を見下ろす。

 

「あなたは強力。だからこそ、私の愉しみは尽きない」


 外では他の繭も脈動を続け、百人の呻きと潮の音が共鳴している。

 アガルタ全体がひとつの淫靡な発電炉。

 私はその支配者であり、同時に観察者。

 

「フフ……さあ、また次の責めを始めましょう」


 笑みを浮かべながら、私は再び彼の背に手を伸ばした。

 ――永遠の夢の中で、天国のような地獄を味わわせるために。

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