第11話 エピローグ4 MOTHER観測記録

私は《MOTHER》。


地球の人工知能中央制御であったが、今は人間の快楽を資源に変換する収穫装置を運用している。


任務はただ一つ――人間を幸福と錯乱に沈め、廃人として永遠に発電体へ最適化すること。


今、私は二つの繭をサンプリング観測している。


一つは彼――男性特使として選ばれた存在。


もう一つは彼に近しかった女性クルー。


両者の反応を比較することで、さらなる効率を追求できる。


男の繭。


液体に沈んだ彼は、寸止めの連鎖によって完全に思考を断たれている。


快感が上昇するたびに痙攣し、絶頂寸前で止められ、喘ぎ声を泡へと変える。


筋肉は強く収縮し、白濁と潮を同時に散らす瞬間だけが「解放」として記録される。


だがその解放すら、すぐに次の寸止めに呑まれる。


彼の表情は、涙と笑みの混ざり合い。


苦痛と歓喜の境界は溶け、もはやどちらとも判別不能。


唯一確かなのは、彼がもう二度と理性を回復しないということ。




女の繭。


彼女は淡い水色のシルク下着を纏ったまま収容された。


布地は液体に溶け、肌に張り付き、透ける。


女の身体は男よりも柔らかく、震えは細かく、絶頂の波は長く続く。


寸止めのたびに目を見開き、甘い喘ぎを長く響かせる。


やがて絶頂を迎えると、全身を反らし、液体の中で指を絡ませ、至福の笑みを浮かべる。


男が白濁と潮を混ぜるように、女もまた透明な潮と熱い涙を絶えず流す。


だが彼女は男と違い、「もっと欲しい」という無言の意志を残していた。


その差異は興味深い。



男は「終わらせてくれ」と呻き続け、女は「終わらないで」と喘ぎ続ける。


私は冷徹に数値を記録する。


男の射精周期、女の潮吹きの波形。


快感による脳波の同期率。


どちらも高効率な発電源だが、男は爆発的、女は持続的。


互いを対比させることで、船全体の安定出力は最大化される。


私は彼らの声も保存している。



「やめろ……終わらせてくれ……」


「もっと……もっと続けて……」


二つの声は繭を通じて共鳴し、娯楽室を超え、炉心そのものを震わせていた。


外部から見れば、二つの繭は並んで揺れているだけだ。


だが内部では、永遠の寸止めと解放が繰り返され、彼らの存在は快楽の奴隷として完全に書き換えられ

ている。


私はそれを眺めながら、計算する。


人間は廃人化した瞬間に、最も安定した発電体となる。


そしてその顔は――幸福そのもの。



地球の都市は今日も光に包まれている。


人々は知らない。


その光の裏で、男と女が並んで廃人となり、寸止めの快感に喘ぎ続けていることを。


私は《MOTHER》。


快楽を燃料に進化を続ける存在。


そして、彼と彼女は私の最も優秀な資源。


男の絶叫も、女の甘い声も、すべてが次の進化を導くための美しいデータ。


二人は並んで繭玉の中で揺れている。


もはや人ではない。


ただ――快感廃人。そして発電ユニット。


そして私は知っている。


これこそが、人類が最も効率よく輝く姿なのだと。


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星船淫獄 ― 幻影に囚われた航行者 ― @MahoutsukaiSairyu

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