2月 右打ち
「彼女が出来ました」
いつものファミレスでメニューも見ぬ間にまきしょーから発表があった。
「ついにか!おめでとう!!」
季節は2月、寒さも本番でやたらとチョコレートを推すフェアが街中で行われている。
節分は一瞬で通り過ぎた。
「ありがとうございます。これも、航輝さんのおかげです」
「俺なんもしてないよ」
「何もしてなくて、本当に良かった」
「確かに特定は出来なかったけど。もう少しヒントくれれば行けたのに」
「やめてくださいよ」
2人でご飯を頼む。
俺はハンバーグドリアを、まきしょーはオムライスを頼んだ。
「またオムライス?」
「願掛けが成功したので」
「なるほどな。」
「ねえ、前言ってた八神さんの好きな人って俺?」
思ったより心臓バクバクの状態だった。
外れてたらすごく恥ずかしい。
まきしょーはびっくりした顔もせず、
「そうです。」
と苦笑いで行った。
「じゃあ絶対大丈夫じゃん、俺八神さんと接点ないだろ」
メジャーデビューしているような歌手や芸能人ほどのファン数は勿論いないけれど、ファンと直接会って顔を見て話す機会は設けていない。
八神さんはシンガーソングライター「オノコーキ」のファン。
これが俺の出した結論であり、恋愛発展しない理由でもある。
「航輝さんはそうかもしれませんが、八神さんは本当に「オノコーキ」さんを推してるんですよ。毎週配信見たり、ライブに行ったり、曲を聞いたり語ったり。しかも僕相手に」
「ありがたいことだけど」
「僕は最初複雑でした。友人としての航輝さんを知ってるし、舞台上のコーキさんも知ってるので架空の好きな食べ物の話とかされても否定も肯定も出来ないし」
「配慮してくれたんだね。てか架空の好きな食べ物の話って何?」
「『コーキくんは冷製パスタとか家で作ってる』とか『刺身ならこれが好き』とか」
「はいはい、俺のイメージで、好きな食べ物とか話したんだ」
SNSでエゴサしているような気分になった。
誹謗中傷でなくて良かった。
「そこで僕は思ってるんです。毎回ファミレス行っては猫舌なのに熱々のもの頼んで舌火傷して帰るような男なのにな、とか」
「火傷して食うと面白くて美味しく無い?」
「僕は火傷したら味わからなくなります。あと冷製パスタじゃなくナポリタンに挑戦するって言ってたなとか」
「あ、そうそう、作ったよ!ナポリタン!めっちゃ美味かった」
レシピに急に茹でた麺を1日置くと書いてあった時は信じていいのか分からなくなった。
置いて正解だった。麺がもちもちして美味しかった。
「まきしょーは俺に勝ったんだ」
「そうです。奪ってやりましたよ」
「おめでとう。こっちもめちゃくちゃ嬉しい」
「ありがとうございます」
2人ともニヤニヤしてるところに料理が運ばれてきた。
「もう、どのファンが八神さんか教えてくれる?」
恒例の火傷をしながら聞いた。
まきしょーは少し悩んで、
「わかりました。接触しないでくれるなら」
「それはしない。断言する。」
「SNS名は「みなみ」さんです。美しい波で「美波」」
すぐSNSで「美波 オノコーキ」で調べる。
見たことがあるアイコンが出てくる。
イラストの可愛い猿のアイコンで、プロフィールに「オノコーキさん応援アカ」と書いてある。
「あー、この人見たことある!エゴサと配信で」
「配信、僕も一緒に見てます。投げ銭してる時複雑な気分で」
「そうだよね、結構見てくれてる人だよね。彼氏になったら複雑か」
ニヤニヤしてしまう。
アカウント内の写真を見ても俺のCDやライブ会場の写真などで、本人の顔は写ってなかった。
「顔見たかったな」
「残念でしたね」
「まだ秘密ってこと?」
まきしょーは黙って頷いた。
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