信頼度

「このままスタメンというかレギュラーになれそうなの?」

俺は温かい紅茶を飲みながら聞いた。

「なれないと悔しいですね。まだ、勝てないのかなって」

まきしょーはジンジャーエールを飲んでいた。

勝てない?好きな人に?

そういえばその好きな人って俺では?という結論にこの間なったんだ。

もし好きな人が俺、であれば勝ち負けなら勝ってる。俺が八神さんを特定、認識していない。

そんな俺が急に八神さんと発展は無い。


「この状況からならさ、絶対まきしょーの方が有利だよ。きっと、もう好きな人がいるってことが理由じゃ無いと思う」


まきしょーの距離の詰め方、最初はちょっと近すぎたかもしれない。

でも今八神さんから助けて欲しい時に呼ぶなんて、少なくとも安心出来る相手にまきしょーが選ばれた。


「今、もう付き合ってるみたいな感じなら相手もかなり意識してそう」

「そういや…彼女って居たことないですね」

「あっそうだったんだ」

納得しかけたところに疑問が浮き出る。

「待って、キスしてなかった?序盤で」

「しました。」

「キスは経験あるってこと?」

「キスっていうか…セフレ、だったのかな…?そういうことしてくる方は居ましたね」

「まじかい」


まきしょーの口からセフレという言葉が出たのは意外だった。

だから会う度キスするとか言って…。

まきしょーオリジンかと思ってたが過去に由来する出来事あったのか。


「なんか急に体触ってくるなと思ってほっといたら終わっているみたいな」

「どんな経験してんだ。なんでほっといたんだ。彼女じゃなかったんでしょ?」


少しの沈黙が流れて、

「今考えれば僕が相手に好意があったかと思います。当時は好きになるなと言われたので」

「きゃー!」

こっちが照れる。何そのエピソード。

「勝手に触っておいて好きになるなっておかしくない!?」

「大学生くらいの頃なんで、そういう人も居るんだと思ってました」

「いや達観しすぎだろ。あ。でもさ、八神さんの元カレ?ロミオくんもそんな感じだったのかな」

「…確かに。やることやって付き合わないのは同じですね」

「共通点悲しい」

「昔のことはいいんです、僕は。航輝さんこそ元カノの話とかしてくださいよ」

「えー?俺無いよそんなエピソード。」

「彼女居たことあるんですか?」

「そりゃーーー…あー、あるよ」

「どんな人だったんですか?」

「どんな…そうだなぁ…」

あんまり言いたく無いけど、まあ、思わぬまきしょーの過去の話聞いちゃったからなぁ。

「いい子だったよ」

「おお…」

「何、おお…って」

「航輝さんの恋人の話って新鮮で」

まきしょーの目がきらきら光ってるように見える。

「確かに言わないよな、過去の話とか」

「で、どうして付き合ったんですか?身体関係のみの人ですか?」

「後者は無いよ、一回も。どうしてって…言いたくねー…」

「フー」

まきしょーから高い声で茶化される。

まきしょー本人は真顔なのも何か腹立つ。

「あー、うん、言うわ。」

「ちょっと飲み物取ってきます。フー」

「フーやめろ」


自分の今の顔を鏡で見たく無い。

絶対に照れてる顔をしてる。それをまきしょーが見てる。恥ずかしすぎる。


「お待たせしました、続きお願いします」

「そんな溜めて言うことじゃないからあんまり身構えないで」

「僕の話聞いてもらったのでイーブンくらいは聞きます」

まきしょーがいつになくグイグイ来る。

「まきしょー程のインパクトないよ?」

閉まっておいた過去を頭の中で掘り返す。

「高校が同じだったんだよ、その子と」

「え、学生時代の話ですか?」

「学生時代は別にそんな仲良くなかった。大人になった時、友達とプチ同窓会みたいなことやって、まぁ……付き合って」

「はいはい」

まきしょーはニヤニヤしてる。俺もまきしょーの話聞いてる時こんな顔してるのだろうか。

「それだけだよ。別れて終わり。以降彼女無し。」

「なるほど……」

「面白くないよー。俺の恋愛遍歴なんて」

「いや面白いですよ。なんか……ちゃんと人間やってるなって認識できましたし」

「俺をなんだと思ってる?」

少し二人で笑い合う。


「1個聞きたいことがあって」

「なーに?」

「別れた原因です」

「えー」

「色んな情報見たら価値観合わなかったとか、会う時間少なかったからとか見聞きしました」

「あー。よく言うよね」

「一応、これからに備えて一例として聞いてもいいですか?」

「……引越し。」

「引越し?」

「相手がね、引越しして、遠距離恋愛になったら

ダメになっちゃった。なるべく近くに居た方がいいのかも」

「……なるほど、ありがとうございます」

「あんまり参考にしないで。なんか恥ずかしい」



まきしょーと別れて、久しぶりに彼女を思い出す。

時間は残酷に流れている。

もう彼女からの連絡は来ないことは分かっている。

それでも友達リストからも電話帳からも名前を消せないでいる。

きっと次の彼女が出来たら消せるんだろう。

そういえば別れを告げたのは来月だった気がする。

ちょうどバレンタインデーだったのが皮肉で、忘れようにも毎年思い出してしまう。

せめて何でもない日が良かったのに。

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