1月 フリ

「あけおめ」

「おめでとうございます」


俺とまきしょーはいつものファミレスに集合していた。

三が日は過ぎたがまだまだお正月気分が抜けない。

メニューのタブレットのおすすめ欄は赤と金が散りばめられ、ゴージャス感のあるズワイガニのパスタやピザ、いつもより大きめのエビが乗ったドリアがあった。

「何頼む?今期間限定だとカニとかエビとか」

「期間限定…」

「俺エビドリアにするわ。これ正月関係あるのかな」

注文し、タブレットを渡す。

「1月は多少高い品でも、おじいちゃんおばあちゃんが冬休みに来た孫にスペシャルなご飯食べさせてあげようっていう目論見じゃないですか?」

「確かに。新年からお金の感覚リセットされるよな。給料出たわけでもないのに給料日後みたいな」

「まだまだお年玉ほしいですね」

「わかる」


しばらくするとエビが多めに乗ったドリアと、オムライスが運ばれてきた。

「あれ、カニにしなかったの?」

「僕今レギュラー狙ってるんで願掛けで…」

「部活?」


エビドリアはご飯だけではなくエビ自体も熱々だった。今年も無事舌を火傷した。

「そんで八神さんの方は?」

「今ベンチメンバー入りしたところです」

「えっ!?ベンチ?八神さん部?補欠ってこと?大出世じゃん!すごくない?」

「色々経緯があって…まずキモい男が出るんですけど」

「うわ面白そう。うんうん」

「その人からロミオメールが来てるんです。知ってます?」

「ロミオメール?」

聞くと、自分と相手をロミオとジュリエットのように悲観的恋愛と重ねて、いくらジュリエット側が断っても話が通じず、むしろ愛の障害として乗り越えようとする思考回路がある男=ロミオ。

そのロミオから来るメールがロミオメールというらしい。

「一時期ネットでも流行った言葉らしいです」

「まじか。えっ漫画とかもあるじゃん。」

ネットで調べると例文というか本当に送られてきた人達のスクショが沢山乗っている。

その文章はポエムだったり連投で愛を押し付けてる文などがあった。

「うわー。こんなんあんだね」

「こういう文章が八神さんへ届いてて」

「怖」

「彼氏いるって伝えたら八神さんの帰宅時間狙って職場まで来て」

「鬼ヤバ」

「彼氏のフリに任命されました。これがベンチ入りの理由です」

「いやその前にこのストーカー男大丈夫?警察の方が良くない?」

「このストーカーがですね、出張で来てる会社のお客様なんですよ。前マドレーヌ作った時、ちらっと話した、相手が元片思いしてた人の話、覚えてますか?」

思い出す。やる事やって捨ててった男か。


「思い出した」

「そいつが今出張で来てます」

「ヒエ。鳥肌たった」

「その人が帰るまで彼氏のフリしてほしい、というのが進展です」

「それは…えっとおめでとう?近付いたってことか」

「チャンスをくれた意味では感謝してます。でも話が通じない相手と会合したら何してくるかわからないので怖いです」

「怖いよなぁ!まじまきしょーが心配だよ俺。相手刃物とか持ってて急に刺されるとかあるかもしれないじゃん!」

「会いたくないですね、そいつと」

まきしょーはオムライスを食べ終わり、スプーンを置いた。

「飲み物、取ってきます」

ドリンクバーへ勇んで行った。



「期間っていつまで?」

「あと4日です」

「あれ、今日は?」

「今日も家まで送っていきました。とりあえず今のところ問題ないです。人通り多いところ選んでます」

「へー。そこだけ聞いたら完全にカップル」

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