裏切りと邂逅

昼休み。

亜子と恵は別の場所でご飯を食べていたため、優奈はひとりで弁当を広げていた。


「……」


無言で箸を動かしていると、突然、他のクラスの女子が近づいてきた。

それは中学からの友達・良子だった。


「ちょっと優奈……これ、なに?」


良子の手にはスマホが握られていた。

そこに映っていたのは――優奈が鍵垢で投稿した内容。


画面には、良子が他校の男子と手を繋いで歩いている写真が載せられていた。


「友達だと思ってたのに……最低。もう二度と口きかないで!」


怒りをあらわにした良子は、教室を飛び出していった。


「え? ちょっと……」


事態を飲み込めずに立ち上がる優奈。その背後から、じっとした視線を感じた。


「……」


振り向くと、そこには亜子と恵。二人は不敵な笑みを浮かべていた。


――そうだ。優奈の鍵垢のフォロワーは、その二人しかいない。

すぐに彼女たちの仕業だと分かった。


「……」


優奈は涙を必死に堪え、前を向き直った。





下校中、優奈はこらえていた涙を、とうとう流しながら歩いていた。


そのとき、偶然通りかかったのは、あの会社員だった。


「……」


俊樹は驚きに足を止める。しかし、優奈は泣いている姿を見られた恥ずかしさに顔を伏せ、そのまま走り去っていった。


「……」


会社員――岸田俊樹。営業職として働く彼は、その足でファミレスに立ち寄り、ひとり食事を取っていた。


ふと近くのテーブルから、耳に入る声があった。


「優奈のあの泣きそうな顔、マジ笑ったわ」


俊樹は思わず箸を止める。


「いい気味だよね。アイツ、上から目線で調子に乗ってたし」

「それに優奈、良子にも絶交されてたし。学校、もう来ないんじゃない?あんなことしてさ」

「ほんとだよ。だいたい優奈が悪いんだよ。勝手に写真投稿したりしてさ」


聞き覚えのある名前――それは、優奈の友達亜子と恵の声だった。


「……」


俊樹は無言で耳を傾ける。


やがて二人は食事を終え、レジへ向かった。


「あ、やば……お金足りない」

「マジ?……私もあと400円足りない。どうしよ」


店員が眉をひそめる。

「どうしたの?払えないの?それなら親御さんに来てもらうか、警察に連絡するしかないね」


顔を青ざめさせる二人。


そのとき、俊樹が席を立った。


「待ってください。この子たちの分、僕が払います」


「え……あ、あの……」

「ありがとうございます……」


礼を言う二人に、俊樹は真剣な眼差しを向けた。


「さっきの会話、聞こえてしまった。だけど……君たちがしていることも最低だと思うぞ」


二人はハッと顔を上げる。


「言いたいことがあるなら、直接言うべきじゃないか。たとえ理由があっても、友達を傷つけるのは間違ってる」


沈黙のあと――。


「……はい」

「すみませんでした」


二人は小さな声で答えた。



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