すれ違いの始まり
仕事を終えた会社員は、夜の街を歩きながら帰路についていた。
「ん?あの子……この間の……」
偶然、街中で優奈を見かけた。
「あ……」
優奈は小声でつぶやいた。
亜子が振り返る。
「え?誰?知り合い?」
優奈は慌てて首を振る。
「ちがうちがう。この間、注意してきた親父」
恵が小さな声で呟いた。
「え?まじ?うわ、こっち見てる……キモッ」
「いこ、いこ」
優奈は友達の腕を引き、そそくさとその場を離れた。
背後で、二人がひそひそ話している様子を見て、会社員は少し呆れた表情を浮かべる。
「……」
夜風に溶ける静かな沈黙の中、会社員はその場に立ち尽くした。
帰り道で
「ねぇ、これからカラオケでも行かない?」優奈が楽しげに誘った。
亜子は少し困ったように首を振る。
「ごめん、私あんまりお金ないんだ」
恵も続く。
「私も……ごめんね」
「そっか……でも、いいよ。私が払うから」
そう言った優奈に、亜子は笑顔を見せたが、その瞳の奥に僅かな影が落ちた。
「あー、そういえば優奈の家ってお金持ちだもんね」
その一言に、優奈は笑ってみせるが――二人には、どこか上から目線に聞こえ、不機嫌さを募らせていた。
「でも、いいよ。今日は帰ろう。行こ」
「うん。じゃあね」
二人はそのまま立ち去ってしまう。
「……」
残された優奈は、手にしたスマホを強く握りしめ、ひとり取り残された気持ちで立ち尽くした。
翌日、学校の廊下。
「優奈」
突然声をかけられ、優奈は振り向く。
「え?」
そこに立っていたのは同じクラスの男子だった。
「あの、急にごめん。実は前から……優奈のことが好きだった。俺と付き合ってください」
一瞬、周囲の空気が止まる。
「あ……ごめん。気持ちは嬉しいけど、無理かな」
男子の表情が曇る。
「……そっか。分かったよ」
「ごめんね」
そのやり取りを、近くで亜子と恵が見ていた。
「……」
二人の目には、抑えきれない苛立ちが宿っていた。
教室に着くと優奈は直ぐにSNSに投稿した。
> 「今日いきなりクラスの男子に告白されてビックリした!! 結構いい人なんだけど、恋愛対象としては見れなかった。ごめんねー」
軽い気持ちで書き込んだだけだった。だが、その投稿の下にすぐコメントがついた。
> 「あんた何様のつもり?金持ち自慢したり、フッた理由が『恋愛対象としては見れない』とか……何その上から目線」
「え?」
驚いて画面を見つめる優奈。そのとき――。
背後から声がした。
「……」
振り向くと、亜子と恵が立っていた。二人は不敵な笑みを浮かべ、そのまま無言で去っていく。
その日を境に、二人は優奈に一言も口をきいてくれなくなった。
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