第6話 ドワーフのお客さん

 今日も今日とて、いつもと変わらない一日がはじまった。

 夜明けの時刻に、自分の薬草園を見てまわり、販売用の薬草を収穫して、こっそり育てている希少品種や品種改良した薬草の生育具合を見てまわる。

 これといった異常はなく、店に行く前にお母さんと一緒にご飯を食べ、弁当を受け取って転移した。

「今日は希少品種を多めに持ってきたからね。売れるといいけど」

 人間もよく知っている薬草がメインではあるが、エルフじゃないと知らないような品種や、存在は知られているけど発見するのが困難な薬草、私がオリジナルで品種改良した薬草など、最近はそういうマニアックな薬草の需要も出てきたため、里から持ってくる商品を微妙に変えてみたのだ。

「さて、仕事仕事。薬草を並べてっと…」

 私はいつも通り、陳列棚に薬草を並べはじめた。

 それが終わると、意外と好評を博した冷たいハーブティも用意して、薬草を絞る機械の掃除を終えれば完了だ。

 店内からシャッターを開けると、夜明けを迎えたばかりの道の駅は静けさに包まれていた。

 行動が早い重装備の旅人が、さっそく冷たいハーブティと傷の薬草を購入してくれたのを皮切りに、ポツリポツリとお客さんがくるようになった。

「今日は朝から快調だね。いい傾向だ」

 私は笑った。

 今日は天候の悪化がないだろう。せいぜい、降っても通り雨程度だと予測した。

 薬草の売れ行きを予想しながらニコニコしていると、あまり人間社会では見かけないドワーフの一団が、馬車に乗ってやってきた。

「ドワーフか。ちょっと恐いな」

 私は小さく苦笑した。

 私はそれほどでもないのだが、基本的にエルフとドワーフの仲は悪い。

 この先に街道を進んでいくと、ミスリル鉱山に分岐する地点があるのは知っているので、恐らくその採掘作業に向かう途中なのだろう。

「ここにくる途中で聞いたのだが、ここはエルフがやっている薬の店というのは本当か?」

 一団の数は十名。

 その中で、立派なヒゲを蓄えた一人が声をかけてきた。

「はい、そうですよ。ご用命は?」

 どこかで幾分警戒しながら、私は笑顔で答えた。

「うむ、これから鉱山で作業の予定なのだが、怪我に備えて傷薬が欲しい。一人十本は用意したいのだが、対応は可能か?」

 その一人が問いかけてきた。

「全部で百本ですね。生のままの薬草とポーションに加工して、そのまま飲めばいいだけの薬が作れますが、用途を考えるとポーションの方がよろしいですね。金貨二枚になります」

 私は笑みを浮かべた。

「うむ、そうしてくれ。時間はどのくらいかかる?」

 私がお金を受け取ると、そのドワーフが問いかけてきた。

「そうですね。数が多いので、一時間はかかると思います。ここの食堂で時間を潰していて下さい」

 仏頂面でニコリともしないドワーフたちが頷き、食堂に向かって歩いていった。

「やっぱり、どうも恐いんだよね。まあ、仕事しなきゃ。ポーション百本か」

 私は陳列棚から薬草を取り、機械でその汁を搾りはじめた。

 一回につきポーション十本分しか絞れないので、なかなかの重労働だ。

 まずは、ポーション百本分の薬草の絞り汁を用意して、それを一回分の薬液が入る小さなガラス瓶に注ぎ、効力を上げるためにオリジナル配合の薬液を一滴垂らして呪文を唱え、淡く緑に光れば出来上がり。

 作業中も別のお客さんがやってきて、薬草を売ったり毒消しのポーションを作ったりしながら、ドワーフから注文された傷薬百本が出来たのは、約束の一時間より数分前といったところだった。

「ふぅ、なんとか間に合った。これで、怒られる事はないか」

 私はホッと安堵のため息を吐いた。

 それから三十分くらいして、お酒でも飲んだようで、上機嫌のドワーフご一行様が再度やってきた。

「うむ、傷薬は出来たか?」

 先ほどと同じ人が問いかけてきた。

「はい、出来ていますよ」

 私は作ったポーションを十本ずつ紙袋に入れて渡した。

「うむ、世話になった。またな」

 特に問題なくドワーフの一団が去り、私は小さく笑みを浮かべた。

 時刻は昼に近くなっていき、気温の上昇に従って、愕くほど冷たいハーブティが売れ行きを伸ばした。

「薬草よりこっちの方が身近に感じるのかな。オマケ程度ではじめたんだけど」

 私は苦笑した。

 ともあれ、これでハーブティが主力商品の一つになることが分かった。

「これだけ売れるなら、味と効能にも拘った方がいいよね。なにがあるかな」

 私は地下倉庫の乾燥させた薬草の在庫を思い返し、疲労回復という効能は変わらず、味違いの一品を出してみる事にした。

 昼のピーク時前に用意を済ませようと、地下室と休憩スペースを下りたり上ったりしながら、私は六種類の薬草をブレンドした、新しいハーブティを試しに販売開始した。

「売れ行きを見てからだけど、十種類くらいは考えようかな。疲労回復と痛み止めなんて作ったら売れそうだし、ハーブティだって薬といえば薬だからね」

 私は笑った。


 昼のピーク時を迎え、道の駅は満車になっていた。

 お目当ては食堂のようだが、食後の口直しになるようで、新しく置いたハーブティ共々乾燥させた薬草がなくなってしまい、あっという間に売り切れてしまった。

「こりゃ想定外だね。まさか、ここまで売れるとは」

 全く、商売というものは、なにが売れるか分かったものじゃない。

 私は苦笑した。

 ハーブティが売り切れると、今度はポツリポツリと疲労回復のポーションを求めるお客さんが増えてきた。

「ガレオレの街からなのだが、ここにきて急に疲労が溜まってしまってな。軽いもので構わないので、いい薬はないものだろうか」

 店にやってきた重装備の旅人が苦笑した。

「はい、調剤しますよ。銀貨十枚になります」

 私は笑って、陳列棚から薬草を数種類取り、調剤スペースで機械にかけて絞り汁を陶器製の小さなタライに落とした。

 それを小さなガラス瓶に移し、仕上げの魔法をかけて魔法薬にすると、銀貨十枚と引き換えに、その瓶をお客さんに渡した。

「ありがとう。疲労が抜けたよ。これで、まだ歩ける」

 お客さんは、満足そうに笑みを浮かべ、再び街道へと向かっていった。

「よし、また売れた。暑いから、歩きの旅は大変だよね」

 私は笑みを浮かべた。

 晴れているのはいいが、日光が直撃するこの時間は、歩くのもかなりシンドイはずだ。

「ついでに、食堂辺りで少し休んでいけばいいのにっていったら、お節介だからね。あっ、次のお客さんがきた」

 昼のピーク時は、本当に忙しくなる。

 休憩で食堂に立ち寄ったというパターンが一番多く、ある程度予算に余裕がある旅人はポーション、あまり余裕がない旅人は無加工の薬草を買っていってくれる。

 この時間帯の売り上げが一番大きいので、私もぼんやりはしていられない。

 結局、売れ筋の傷の薬草と毒消しの薬草は、昼のピーク時でほぼ完売状態になり、あとはマニアックで変な薬草だけが残った。

「まあ、さすがにこれは売れないよね。食中毒にいいんだけど、精製が面倒なんだよね」

 私は陳列棚の白い花をつけた、希少な薬草を一本手に取った。

 正直、これを買うくらい余裕があるなら、乗合馬車に途中乗車して近くの村や町に運んでもらった方が早い。この薬草は、それなりの値段がするのだ。

 時刻は午後になり、今日はなにもなければ夕方には里に戻るつもりでいた。

「お客さんが途切れたね。今のうちに、お弁当を食べちゃうか」

 今日は忙しかったので、お弁当を食べている暇がなかったのだ。

「さて、頂きます。いつもながら、美味しそうだ」

 私は手早く遅めの昼ごはんを終えた。

「ごちそうさま。さて、まだお客さんはくるかな」

 などと呟きつつ、薬草が売れた分、陳列棚の配置を変えたり、落ちた葉や茎の掃除をしたり、まったりと過ごした。

 今日はもうこのままかなと思っていると、街道から猛スピードで馬車が飛びこんできて、私の店の前に横付けして止まった。

「店主、いるか?」

 馬車から飛び降りてきたのは、朝のドワーフだった。

「そんなに急いでどうされました?」

 私は急いで店から出て、馬車の荷台を除いた。

 すると、全身傷だらけで、荒い呼吸をしているドワーフが寝かされていた。

「坑道の壁が崩落してな。他の者は傷のポーションで助かったのだが、コイツだけはダメでな。なにかいい薬はないか?」

 そのドワーフに問われ、私は少し考えた。

 目に見えている裂傷からの出血は大した事はないので、ハイポーションという一段階上の傷薬でなんとか対応出来るだろうが、明確に骨折している様子もみえるし、内臓にダメージがある可能性がある。

 事態は一刻を争うが、ちゃんとした医者がいる近くにある町まででも、馬車であと数時間はかかってしまうので、とても間に合わないだろう。

「これはもう、エリクサーを使うしかありません。値段は緊急時という事を考慮してお安くしても、金貨千枚になってしまいます。どうされますか?」

 エリクサーが金貨千枚など、大特価もいいところ。材料費にしかならない。

 しかし、とんでもない大金なのは分かっているので、私はドワーフに確認した。

「なるほど、エリクサーという薬の存在はワシも知っている。金貨千枚など、コイツの命に比べたら安いものだ。さすがに、今すぐ手持ちはないが、採掘場の金庫になら金はある。なんとか出来るならやって欲しい」

 ドワーフは淀みなく答えてきた。

「分かりました。まずは、診察台に移しましょう」

 私の言葉にそのドワーフが頷き、馬車の荷台から怪我人を抱え上げ、店のベッドに寝かせた。

「では、ワシは金を取りにいってくる。頼んだぞ」

 そのドワーフは再び馬車に乗って、猛スピードで街道を走っていった。

「さて、まずは点滴の準備をするか。久々だな」

 エリクサーは液状の剤形で、これが必要になるような重傷を負った場合、自力で服用する事が出来ない場合が多い。

 よって、エリクサーの点滴投与など、さほど珍しい事ではない。

「えっと、点滴スタンドはあった。これを持ってきて…」

 私は怪我をしたドワーフの右腕上部を豚の皮を使って作った、弾性があるバンドを巻いて強く縛り、静脈を浮き立たせた。

 そこに細い注射針を刺して、細いツタ植物の中身をくり抜いて作ったチューブを通して、点滴スタンドにぶら下げてある、生理食塩水で満たした豚の膀胱を使って作った袋から、直接血中に薬液が流れるようにした。

 その生理食塩水の袋に、店の奥から取り出したエリクサーの小瓶の蓋を取って傾け、大量の生理食塩水と一緒に体に入っていくようにセッティングを終えた。

「ふぅ、これでよし。三十分くらいで効いてくるはず」

 私は額の汗を拭った。

 点滴中のドワーフの様子をみていると、また馬車が猛スピードで道の駅に突っ込んできて、先のドワーフが降りてきた。

「どうだ、様子は?」

 お金が入った大きな袋を床に置き、そのドワーフが問いかけてきた。

「今は点滴でゆっくり薬を体内に注入しています。三十分も掛からず、効き目は出てくるはずですよ」

 私は頷いた。

「そうか、良かった」

 そのドワーフが軽く頭を下げた。

「あとは待つだけです。問題ありません」

 私が笑った時、怪我をしたドワーフの体が緑色に光った。

「あっ、効いてきましたね。もう、問題はありません。私は他の作業をしますので、なにか起きたら呼んで下さい」

 私は笑みを浮かべ、ベッドから離れた。

 あとの看病はお仲間に任せ、私は店内の整理をはじめた。

 光った時点でエリクサーが効いたという事だ。もう、心配はない。

「おっ、目を覚ましたぞ。大丈夫か?」

「ここはどこだ。俺は…」

 二人のドワーフが会話をはじめたので、私は安心して店の片付け作業をはじめた。

「回復されてなによりです。しばらくは、痛みが残る可能性があるので、無理はしないで下さいね」

 私はドワーフらしいというか、底抜けの体力でもうベッドに座ったお客さんに声をかけた。

「ああ、分かった。ありがとう」

 ベッドに座ったドワーフが、笑みを浮かべた。

「世話になったな。またなにかあれば、駆けつけさせてもらう。では、我々は失礼しよう」

 もう一人のドワーフが頭を下げた。

「もう少し待って下さい。その点滴が終わるまでは、動かないで下さいね。一時間も掛からないはずです」

 私は今にも立ち上がりそうな、ベッドのドワーフに声をかけた。

 今はまだ少し動けるようになっただけ。

 エリクサーの本領発揮はこれからだ。

「そうか、分かった」

 こうして、ドワーフ二人の会話を聞きながら、私は店内の整理を終え、休憩スペースに戻った。

「うむ、なにやら体が熱いな。大丈夫か?」

 ベッドのドワーフが問いかけてきた。

「はい、大丈夫ですよ。体内の魔力に、エリクサーが反応しているだけです。それが収まれば、完治という事になります」

 私は笑った。

「そうか、こういう事は不慣れでな」

 ベッドのドワーフが笑った。

 その後はなんの異常もなく、私が点滴の針を抜くと、二人のドワーフは馬車に乗って去っていった。

「うん、無事に治って良かった。これで、エリクサーの在庫は四つか。常に五個は用意しておきたいから、家に帰ったら作らないと」

 私は笑みを浮かべた。

 里にある自宅に戻らないと、ここに設置してあるポーション製造装置ではエリクサーの精製はできない。

 いつも一回に作るのは十個と決めてあり、補充の目安が五個を下回った時だった。

「材料はまだたくさんあるし、問題ないね。それにしても、また今日も稼いじゃったな。材料費だけとはいえ、金貨千枚か」

 これは里に収めない。私の技術料として受け取って、地下の金庫にしまっておくつもりだ。

 それくらい、エリクサーの精製は神経を使う作業になるのだ。

「よし、まずはこのお金を金庫にしまおう。誰もこないしちょうどいいや」

 私は浮遊の魔法で、さっき受け取ったエリクサーの代金が入った革袋を持ち上げ、地下室に下りた。

 そこにある大きな黒い金庫に革袋を収め、扉を閉めれば問題ない。

 私は再び休憩スペースに戻った。

「今日はもう終わりかな。もう夕方近いし、たまには早く帰らないとお母さんが心配しちゃう」

 なんとなく呟いた時、クレッシェンドさんがフラリとやってきた。

「こんにちは。繁盛しているかい?」

 クレッシェンドさんが笑った。

「まあ、ボチボチと。今日はエリクサーが出たので、家に帰ったら作らないといけないんです」

 私は笑った。

「ほう、エリクサーか。重傷者でも出たのか?」

 クレッシェンドさんが笑みを浮かべた。

「はい、この近くにあるミスリルの採掘場で事故があったらしくて。治療に成功したので、問題はありません」

 私は笑った。

「ふむ。エリクサーなど、滅多に使うものではないからな。エリクサーは、元々エルフの間で使われていた薬だ。それを模倣したのが、人間が作るエリクサーだな。もし在庫があるなら、一つ譲って欲しい。研究のサンプルに使おうと思っている」

 クレッシェンドさんが笑った。

「エリクサーですか。かなり高額ですよ。材料費に手間賃を加えると、金貨二千枚になります。失礼ですが、予算は大丈夫ですか?」

 私は笑みを浮かべた。

 そう、これが私が設定している、正規のエリクサーの価格だ。

 必要な材料がなかなか手に入らない上に、精製失敗が当たり前というほど作るのが難しい。

 それを考えると、これでも安い方だと思っている。

「なんだ、そんなに安いのか。人間のツテを辿って材料をかき集めると、それだけで金貨五千枚になってしまう。ぜひ一つ譲ってくれ」

 クレッシェンドさんが笑った。

「あれ、価格設定間違えましたね。今さらなので金額は変えません。エリクサーを持ってきますね」

 私は店の奥にいき、陳列棚で埃を被っていそうなくらい、存在感が薄いエリクサーの瓶を一つ取った。

「うむ、金はこれで足りるな」

 クレッシェンドさんが空間ポケットを開き、中から大きな革袋を二つ取りだした。

「全部で金貨二千枚ある。私は金貨を千枚ごとに、一袋に分けて入れてあるのだ」

 どうやら、クレッシェンドさんはお金持ちらしい。

 私は思わず苦笑してしまった。

「はい、確かに。これがエリクサーです」

 私は手にあったエリクサーの薬瓶を紙袋に入れ、クレッシェンドさんに手渡した。

「うむ。確かに受け取ったぞ。さっそく、今夜あたり研究する事にしよう。人間がつくるエリクサーは、本家に比べて数段効力が落ちるからな」

 クレッシェンドさんが笑った。

「それはそうでしょうね。詳しい話しはできないのですが、人間が作るエリクサーは必要な材料が三つ足りません。仕上げの魔法も雑ですし、どうしても効力に差が出てしまうと思います」

 私は笑みを浮かべた。

「なるほどな。これは、研究の価値がありそうだ。エリクサーは、いつも在庫があるのか?」

 クレッシェンドさんが問いかけてきた。

「はい、常時五個以上は在庫しておくようにしています。いつ使うか分かりませんからね」

 私は笑った。

「うむ。ならば、足りなければまた購入できるのだな。その時はよろしく頼む」

 クレッシェンドさんが、笑みを残して簡易宿泊所方面に向かっていった。

「これは、里に収めよう。正式な売買をしたものだからね」

 私はクレッシェンドさんが支払った、エリクサーの代金が入っている革袋を魔法で浮かせ、仮置きで地下室の金庫に収めた。

「よし、今日も売り上げが凄い。長が喜ぶだろうね」

 私は笑った。


 クレッシェンドさんにエリクサーを売ったあと、私は夕暮れの中店を閉じる準備をはじめた。

 窓を全て閉じて施錠し、シャッターを下ろして鍵をかけた。

「さて、里に収めるお金をまとめよう。今日は、エリクサーが二つ出ちゃったから、儲けが半端じゃないんだよね」

 私は里に持ち帰る売上金をまとめて革袋に入れて、里に転移した。

 自宅に向かう前に長にお金を収め、私は無事に帰宅した。

「あら、今日は早かったのね。ちゃんと、お役目を果たしている?」

 台所で料理をしていたお母さんが、少し驚いたような表情を浮かべた。

「ちゃんとやってるよ。今日はエリクサーを作らないと。二つも出ちゃって」

 私は笑った。

「あら、それは大変。今からエリクサー作りとなると、徹夜になってしまいますね」

 お母さんが心配そうな声を出した。

「うん、覚悟の上だよ。今日はドワーフのお客さんがきて、緊張したよ」

 私は苦笑した。

「えっ、あの蛮族と会話をしたのですか。これだから、外に出すのは…」

 お母さんがため息を吐いた。

 まあ、エルフがドワーフの話しをすると、大抵こういう反応になる。

 今となっては理由を知る者は少ないと思うが、エルフとドワーフはお互いに反発し合っている。

「ちゃんとしていたし、恐くはなかったよ。緊張はしたけどね」

 私は苦笑した。

「今度きたら追い返しなさい。全く…」

「お客さんだよ。そういうわけにはいかないよ。それより、ご飯まだ?」

 私は笑った。

「はい、もうすぐ出来ますよ。待っていなさい」

 お母さんが小さく息を吐いた。

「うん、待ってる。さて、今日は徹夜だぞ」

 私は笑ったのだった。

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