第1話
帝国歴1005年
ランドは綺麗な花が咲いている高台にある墓の前で静かに手を合わせていた。
8月9日、つまり今日は、彼女の命日である。
そして、ランドにとっては最も特別な日であった。
しばらく手を合わせたのち、ランドは祈り終わると、ゆっくりと立ち上がり、一筋の涙を流した。
ランドは成長して15歳になったが、決してリンネのことを忘れたことはなかった。
彼の脳裏には今でもあの光景が焼き付いている。それは、彼のトラウマとなり、今でも彼を縛り続けていている。
「ごめんな…」
彼は墓石の上に両手を乗せ、深く項垂れた。
「おい、行くぞ。」
静かな墓場に声が響いた。彼の父、リンドである。
「うん。わかった。」
ランドは返事をし、涙を乱暴に拭ってから彼の元に駆け出した。
ランドはリンドに並び、花咲く道を歩き始めた。するとリンドが話を切り出した。
「もう5年か。」
「そうだね。時が経つのが早く感じるよ。」
「体だけ立派になりやがって…」
「なんだよ。失礼な。」
ランドの背の高さはすでにリンドを超えている。リンドが若く見えるのも相まって、ランドとリンドは兄弟のようだと、よく揶揄されている。
ランドは続けて言った。
「まだあのこと引きずってんだろ?だからお子様だって言ってんだよ。」
「うるさいな」
「そういうのはな、新しい女でも作って忘れた方がいいぞ。ほら、最近お前と仲がいい宿屋の娘なんてどうよ。可愛いじゃねぇか。」
「やめてくれ!!」
ランドは食い気味にそう叫んだ。リンドはすこし苦笑いしながらそれを見ていた。
そして、ランドは気持ちが落ち着いたのち、少しバツの悪そうな顔で謝った。
「ごめん。でも、その話はやめてほしい。」
「そうか。俺も少し不謹慎だった。ごめんな。」
「うん」
ランドの足は少し震えていた。
しばらく歩いて馬車に乗り、彼らは彼らが今住んでいる街に戻ってきた。
彼らが今住んでいる街は、「ウェスタ」と言う街で、王都を除いて4大都市に数えられている。その理由は、ダンジョンがあること。今日も、各地の冒険者が一攫千金を夢見てダンジョンに潜っている。
そこでついた異名は「冒険者の街」
そして、ランド達はもちろん冒険者であった。
「「ただいま」」
いつも愛用している宿屋に着くと、ランド達はそう言った。
「お帰りなさい」
そう返してくれたのは宿屋の女将「マーラ」さんだ。マーラさんは父のかねてからの知り合いらしく、村が焼け落ちてウェスタに来てから、よくお世話になっている。
「夕食は食べますか?」
「もちろんお願いします。」
そうランド達が返すと、マーラさんは厨房の方を向いて言った。
「2人分追加だよ!」
「「はーい」」
応えたのは厨房で料理を作っているマーラさんの娘「ミーナ」とマーラさんの夫である「ジャスティン」さんだ。
彼らの料理はとても美味しく、それ目当てにこの宿に来る人もいるくらいだ。
「じゃあ、夕飯ができたら呼んでください。僕たちは上で休んでます。」
と、ランドが言い、2人は階段を登って彼らの部屋についた。
その後、二人は無言でお互いのベットに寝転んだ。 しばらくして、ランドが口を開いた
「明日はダンジョンか」
「そうだな、お前にとっては初めてのダンジョンだ」
「そうだね。早く、強くなりたいな…」
「……。」
リンドはあの日からよく悲しそうな顔をするようになった。今もそうだ。彼もまた、あの事件で心を痛めているのだ。
彼は気付いたように、その表情を明るいものに切り替え、こう言った。
「勉強はしっかりしてきたか?」
「もちろん。見てたでしょ」
「そうだな。」
「「………。」」
この二人の会話は続かない。一見明るく見えても、彼らの心は重く沈んでいる。
しばらく沈黙が続き、それを破ったのはドアのノック音であった。
ノックの後、マーラはこう続けた。
「ご飯の用意ができました」
「ありがとうございます。すぐ行きます」
二人は立ち上がり、ドアを開け、食堂まで歩いて行った。
食堂に着くと、彼らは彼らの定位置に着席した。
夜遅くだからか、他に人がいる様子はなかった。その日の夕食はカレーライスだった。リンドは自分の席に置かれたカレーライスを口にして、
「やっぱり絶品だね!」
と、言った。ランドもこれには頷き、
「これほど美味しいと他では食べられなくなっちゃうよね」
と、彼らの料理をベタ褒めした。すると、
「ありがとうございます。いつもそう言っていただいて助けになってます。」
と、ミーナが厨房から出てきて、丁寧にお辞儀をした。
実際、彼らは5年前から通い続けており、彼女は良くも悪くも正直な彼らのおかげで自信を持って料理ができている。
ランド達が料理を半分ぐらい食べ終わった頃、ミーナは口を開いた。
「そう言えば、明日はダンジョンに行かれるんですよね?」
「そうだよ、ミーナ。僕は明日、初めてダンジョンに行くんだ。」
「こいつがC級冒険者なんて、未だに信じらんないけどな!俺から言わせれば、こいつはまだガキのままだ。」
「失礼な」
そう、話にも出た通り、ダンジョンは、実はC級冒険者からしか入ることができないのだ。ランドはこの5年間を必死に鍛錬とランク上げに費やし、なんとかC級にたどり着いた。
「死なないでくださいね。死なれたら収入が減ってしまいますから」
「わかってるよ」
そうランドは返事をして、残りのカレーライスをかき込んで、部屋に戻った。
部屋に戻った後、彼はベットに横になると、赤色に煌めく小ぶりな石を胸元から取り出した。そして、彼はその宝石を手で握り、顔に近づけ、まるで、誰かと話しているかのように語り始めた。
「今日で5年目か。」
「君の言った通り、相変わらずおじさん達はうるさいよ。」
「僕は、明日からダンジョンに潜るんだ」
「潜ったら、君を殺した存在について、何かわかるかもしれない。」
「僕は死なないよ」
そういった後、しばらく間を空けて、彼は呟いた。
「絶対に、仇は取るから。」
そう言った彼の特徴的な真っ黒な目には一切の光がなかった。
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