第4話 嘘つきエプロンと禁断の新刊

土曜の午後。美緒は駅前の本屋に足を踏み入れた。

 

ここに遼がいるかもしれない。


心のどこかで「まさか」と思いながらも、視線は無意識にレジを探していた。


 すると いた


黒いエプロン姿の遼が、バーコードリーダーを「ピッ、ピッ」と鳴らしている。背筋をピンと伸ばし、店員らしい真面目な顔。


昨日までの「留学帰り」「車で来た」なんて大人ぶった雰囲気とはまるで別人だった。


嘘の多い王子様が、今はただの本屋の勇者。


思わず笑いそうになった瞬間、遼と目が合った。


彼は固まったが、次の瞬間、無理やり営業スマイルを作った。


 「……いらっしゃいませ。本をお探しですか?」


美緒はこらえきれず、いたずら心が湧いた。

 

「えっと……“嘘つきが主人公の恋愛小説”って置いてます?」


一瞬、遼の口角がピクッと震える。


だが、彼はすぐに本棚に手を伸ばし、一冊を差し出した。


「こちら、『嘘と恋心』という新刊がございます」


なんでそんなピンポイントであるのよ!?


心の中で叫びながら、美緒はその本を受け取った。ページをめくると、帯には大きくこう書かれていた。


「恋の始まりは、いつだって嘘から。」


タイミングが良すぎて、もはや神様がこの茶番を演出しているのではないかと疑いたくなる。


 会計を終えた美緒が店を出ようとすると、背後から声が追いかけてきた。

 「ちょっと待って、美緒!」


外に出た遼は、エプロン姿のまま。通行人に二度見されながら、バツが悪そうに頭をかいた。

 「……ごめん。本当はここでバイトしてるんだ。でも、なんか言いづらくて」


 「なんで隠したの?」

 

「いや……“親の会社を継ぐ予定”とか言ったほうが、かっこいいかなって」


 「かっこいいどころか、詐欺でしょそれ」

 

「……バイトの真実より、夢の嘘を選びたくて」


遼は照れ笑いを浮かべた。エプロン姿のまま「夢の嘘」とか言うものだから、美緒は吹き出しそうになった。


でも。笑いながらも、心の奥では小さな警鐘が鳴っていた。


遼の嘘は、ただの見栄なのか。それとも、この先もっと大きな秘密につながっているのか。

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