第25話 「すれ違う声、寄り添う心」

1. □ 朝の登校路、蝉の声がまだ残る道を歩く。僕の足取りは重く、みんなの背中が遠のいていく。走れば追いつける距離なのに、僕にはそれができない。昨日の“できた”も、今日は“できない”に変わってしまう。

2. □ 電車の中で吊革を握る指が震える。隣の人が一瞥して距離を空ける。その小さな仕草一つが胸を刺す。何も言われなくても「邪魔者だ」と言われた気がして、足元を見つめるしかできなかった。

3. □ 教室に着くと、机に座る前から「昨日の準備お疲れ!」と声をかけられる。笑って頷いたけど、本当は「できなくてごめん」と言いたかった。けれど声は掠れて出ず、喉が裏切った。

4. □ 明日香が「おはよう!」と駆け寄る。彼女の声は澄んでいて、心にまっすぐ届く。僕はタブレットを開き、《おはよう》と打つ。誤字はなかった。それだけで、朝の始まりが少し救われた。

5. □ 授業中、先生が「意見ある人?」と問いかける。頭の中には答えが浮かんでいるのに、声にできない。喉から漏れる息は誰にも届かない。机に爪を立てる。言葉が出ないことがこんなに苦しいなんて。

6. □ 明日香が手を挙げ、僕が考えていたのと同じ答えを言った。驚いた。僕の思考を読んだみたいで。胸の奥がじんと熱くなった。「分かってくれている」そう思えた瞬間、少し涙が溢れそうになった。

7. □ 昼休み、弁当を広げる。箸を持つ手が震え、卵焼きが転がる。前の席から「またか」と笑い声。みんなにとっては軽い冗談。僕には胸を抉る刃。笑顔の裏で、心臓が締め付けられる。

8. □ 明日香がさっと拾って「美味しそうだね」と口に入れた。その自然さに救われる。僕の失敗を失敗にしない彼女の優しさに、また涙腺が緩んだ。

9. □ タブレットに《ごめん》と打つ。けれど本当は「ありがとう」と言いたかった。謝罪でしか表現できない自分が嫌いだ。

10. □ 「謝らなくていいよ。蓮の卵焼き、すごく美味しい」彼女はそう言って笑う。その言葉が胸に沁み込み、涙が止まらなかった。

11. □ 放課後、文化祭の準備。今日は教室の壁を飾る作業。画用紙を貼るだけなのに、手が震えて曲がってしまう。後ろからクラスメイトが直す。その瞬間「やっぱりできない」と胸に突き刺さった。

12. □ 明日香が「曲がってても味があっていいじゃん」と笑った。からかってるわけじゃない。その自然体が心を支えてくれる。でも同時に、「僕だけ特別扱いされてる」と黒い影が囁いた。

13. □ タブレットに《ぼくだけちがう》と打ちかけて、消した。彼女の笑顔を曇らせたくなくて、文字を飲み込んだ。

14. □ 「蓮はここを任せて」と彼女が指示する。その声に従いながら、心の奥で「彼女に守られているだけ」と痛みが広がった。

15. □ みんなが賑やかに準備する声が遠くに感じる。自分だけ別の世界にいるみたいだった。孤独は誰よりも近くにいて、離れてくれない。

16. □ 《ありがとう》と打つ。彼女は笑顔で頷いた。その一瞬だけ孤独が遠ざかる。彼女がいるだけで、僕はぎりぎりで立ち続けられる。

17. □ 教室を出ると夕焼けが広がっていた。赤い光が廊下を染め、影が長く伸びる。僕の影は歪んで揺れていて、未完成のままそこにあった。

18. □ 明日香が隣を歩きながら「今日は頑張ったね」と言った。胸に温かさが広がった。でも同時に「頑張っても普通には届かない」と黒い声が響いた。

19. □ 《がんばってもたりない》と打つと、彼女は立ち止まり、真剣な目で僕を見た。「蓮は十分だよ」その言葉は刃のように胸を突き刺し、そして同時に涙を溢れさせた。

20. □ 涙が頬を伝い、タブレットが滲んで見えた。彼女の「十分」という言葉が信じられなくても、信じたいと願った。信じることでしか僕は救われなかった。

21. □ 家に帰ると母が「どうだった?」と声をかけてきた。僕はタブレットを開いて《たのしかった》と打つ。でも本当は悔しさと苦しさで胸がいっぱいだった。親に心配させたくなくて、笑顔を作った。

22. □ 母は「良かったね」と微笑む。その優しさに胸が締め付けられる。僕は“本当の気持ち”を言えず、また嘘を重ねてしまう自分を嫌いになった。

23. □ 夜、机に向かう。宿題を開いても手が震えて字が書けない。白紙のノートに汗が落ちて、涙が混じった。努力しても形にならない。努力が報われない苦しさが、心を深く抉った。

24. □ 《やりたいのにできない》とタブレットに打ってみる。画面に浮かんだ文字を見て、自分の無力さを突きつけられる。消したくても消せない。

25. □ ベッドに横たわると涙が頬を伝った。「生まれてこなければ良かった」その言葉が何度も頭をよぎる。明日香の笑顔だけが、その暗闇をかろうじて遠ざけてくれた。

26. □ 翌朝、瞼は腫れぼったくて重い。鏡の前で自分の顔を見て、嫌悪感が溢れた。声も、顔も、体も、性格も。どれ一つ好きになれなかった。

27. □ 学校に着くとクラスメイトが「眠そうだな」と笑う。笑い返すけど、本当は眠れなかっただけだ。苦しみを誤魔化すのはもう慣れてしまっていた。

28. □ 明日香が「大丈夫?」と心配そうに覗き込む。僕は《だいじょうぶ》と打った。本当は大丈夫じゃない。でも、彼女の笑顔を守りたくて嘘をついた。

29. □ 授業中、プリントを配る係に指名された。手が震えて、何度も紙を落とした。教室の笑い声が刺さる。僕は視線を下げて、ただ早く終わることを祈った。

30. □ 明日香がそっと後ろから拾って渡してくれる。その仕草に救われる。でも同時に「僕は一人じゃ何もできない」と黒い声が胸を抉った。

31. □ 昼休み、明日香と一緒に屋上へ出る。風が頬を撫でて心地よいのに、僕の胸は重かった。彼女の隣にいられるのは嬉しい。でも「釣り合わない」と思ってしまう。

32. □ タブレットに《ありがとう》と打つ。本当は「一緒にいてくれて幸せ」と伝えたいのに、文字にする勇気が出なかった。

33. □ 明日香は「蓮といると落ち着くんだ」と笑う。その言葉が信じられない。僕の存在が誰かの支えになるなんて、考えたこともなかったから。

34. □ 胸が熱くなり、涙が滲んだ。泣くのを見られたくなくて俯いた。でも彼女は気づいて、そっと肩に触れてくれた。その温かさが涙を溢れさせた。

35. □ 放課後、文化祭準備。今日は看板作り。筆を握ろうとするが、手が震えて線が歪む。周りの視線が突き刺さる。

36. □ 「下手だな」と笑われた。冗談でも、僕には刃だった。胸が痛み、呼吸が乱れた。

37. □ 明日香が「味があって良いじゃん!」とすぐに返した。その一言で救われるけど、同時に“特別扱いされている”感覚が僕を追い詰める。

38. □ タブレットに《ぼくはじゃま》と打ちかけて消す。言葉にしたら、本当に邪魔になってしまいそうで怖かった。

39. □ 明日香が「一緒に仕上げよう」と手を重ねてくれた。二人の筆跡が重なり、線が少し真っ直ぐになった。涙が滲んだ。

40. □ 彼女となら、未完成でも形になる。そう思った瞬間、胸が熱くなった。

41. □ 教室が完成に近づき、歓声が上がる。僕はその輪に入り切れなかった。でも遠くから見ているだけじゃなく、確かに関わっていた。

42. □ 《ぼくもやった》と小さく打つ。画面を見た明日香が「うん、一緒にやったよ」と微笑む。その言葉が宝物になった。

43. □ 家に帰ると母が「文化祭、楽しみだね」と言う。僕は《うん》と打った。胸には不安が渦巻いていたけど、母には笑顔を見せた。

44. □ 夜、布団に潜り込み、明日香の笑顔を思い出した。胸の中で「ありがとう」と声にならない声を繰り返す。涙が枕を濡らした。

45. □ 翌朝、鏡に映る自分はまだ嫌いだった。でも昨日より少しだけ、目に光が宿っていた。

46. □ 学校に着くと「文化祭もうすぐだな」とクラスが盛り上がる。その輪に入れない自分をまた責める。

47. □ 明日香が「一緒にやろう」と声をかける。その一言だけで、輪の外にいた僕を中へと引き戻してくれた。

48. □ 作業中、絵の具をこぼしてしまった。笑い声が教室を包む。僕の心は凍りついた。

49. □ 「ドジだな」と誰かが笑った。胸がえぐられ、息が詰まった。涙がこぼれそうになった瞬間――。

50. □ 明日香が「可愛い失敗じゃん」と笑って肩を叩いた。クラスの笑い声が和らぎ、雰囲気が変わった。

51. □ 彼女が隣にいるだけで、世界は少し優しくなる。涙はまだ滲むけど、胸の奥に小さな温もりが残った。

52. □ 《ありがとう》と打つ。本当は「君がいるから救われる」と言いたかった。でもまだ勇気が足りなかった。

53. □ 明日香が画面を見て「私もありがとう」と返す。その言葉に胸が震えた。

54. □ 作業が終わり、教室が賑やかになる。僕はその輪の端に座っていた。孤独と安心が交互に押し寄せてきた。

55. □ 明日香が「こっち来なよ」と呼ぶ。勇気を出して一歩踏み出す。その一歩が胸を熱くした。

56. □ 文化祭のポスターが完成した。僕の手も少し加わっている。小さな痕跡だけど、それが確かに僕の存在を示していた。

57. □ 《ぼくもいる》と打つ。明日香が強く頷き「もちろん」と言った。その瞬間、涙が溢れた。

58. □ 帰り道、夕焼けに照らされた影が並ぶ。歪んで揺れる僕の影と、まっすぐ伸びる彼女の影。それでも隣に並んでいた。

59. □ 《となりにいていい?》と打つ。彼女は立ち止まり、真剣な目で僕を見つめた。

60. □ 「ずっと隣にいてほしい」その言葉に胸が震え、涙がとめどなく流れた。

61. □ 声にならない嗚咽が夜の帰り道に響いた。でも、その涙は苦しみだけじゃなく救いの色をしていた。

62. □ 家に帰り、母に「どうしたの?」と聞かれる。僕は笑顔を作り、《なんでもない》と打った。本当は心が溢れていた。

63. □ 夜、布団に潜りながら「ありがとう」を繰り返す。声にならない言葉が、胸の奥で何度も響いた。

64. □ 夢の中で文化祭が始まっていた。僕は不器用に立っていたけど、隣には明日香がいた。

65. □ 未完成でも並んで歩ける。それだけで十分だった。

66. □ 翌朝、鏡の中の僕はまだ未完成だった。でも昨日より少し誇らしげに見えた。

67. □ 学校に着くと文化祭の準備が佳境を迎えていた。僕は輪の中に混ざる。緊張よりも期待が勝っていた。

68. □ 明日香が「今日も一緒にやろう」と笑った。その笑顔に背中を押され、僕は頷いた。

69. □ 作業中、また失敗した。絵の具が机に広がった。笑い声が聞こえた。でも昨日ほど胸は痛くなかった。

70. □ 明日香が「また可愛い失敗だね」と笑う。クラスも一緒に笑った。僕の失敗が、少しだけ温かいものに変わった。

71. □ 《ごめん》と打つと、彼女は「ありがと」と返した。そのすれ違いが、なぜか胸を温めた。

72. □ 失敗しても受け入れてもらえる。それだけで涙が滲んだ。

73. □ 放課後、準備が終わった教室を見渡す。色とりどりの飾りに囲まれ、胸が高鳴った。

74. □ 《きれい》と打つ。明日香が「ね、私たちで作ったんだよ」と笑った。その言葉に胸が震えた。

75. □ 自分が関わった証がここにある。その事実が涙を呼んだ。

76. □ 帰り道、夕焼けの下で《ありがとう》と打った。彼女は「こちらこそ」と返した。

77. □ 涙が頬を伝った。でもその涙は確かに温かかった。

78. □ 家に着くと母が「楽しそうだね」と言った。《うん》と打った。心からの言葉だった。

79. □ 夜、布団の中で「僕はここにいる」と小さく呟いた。声は掠れていたけど、自分にはちゃんと届いた。

80. □ 夢の中で明日香と笑っていた。未完成でも、笑顔は本物だった。

81. □ 翌朝、胸の奥に小さな光が残っていた。その光は昨日より強く輝いていた。

82. □ 学校に着き、文化祭の準備も大詰め。みんなの笑顔に混ざって、僕も少し笑えた。

83. □ 明日香が「似合ってるよ」と飾りを渡した。その一言で涙が滲んだ。

84. □ 《ありがとう》と打つ。本当に伝えたい言葉が少しずつ言えるようになっていた。

85. □ 教室が完成し、拍手が起きた。僕も一緒に拍手をした。震える手でも、確かに音を奏でていた。

86. □ その音が胸に響いた。「僕もここにいる」そう思えた。

87. □ 帰り道、明日香と並んで歩く。影が並び、夜に溶けていった。

88. □ 《となりにいてくれてありがとう》と打った。彼女は「こちらこそ」と答えた。

89. □ 涙がまた溢れた。でも苦しみだけじゃなかった。

90. □ 救いと希望の涙が頬を伝った。

91. □ 布団の中で「僕は未完成」と呟いた。でも昨日より前を向いていた。

92. □ 夢の中で文化祭が始まった。僕は笑っていた。

93. □ 明日香の隣で。

94. □ 涙と笑顔を抱えたまま。

95. □ そのどちらもが僕の声だった。

96. □ 未完成の声は、少しずつ彼女に届いていた。

97. □ その事実が胸を温めた。

98. □ 「ありがとう」声にならない声が心に響いた。

99. □ 涙は止まらなかった。でも止めなくていいと思えた。

100. □ 未完成の恋模様は、今日もまた続いていく。涙と笑顔を重ねながら。

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