第24話 「声にならない応答」
1. □ 朝の光はいつもと変わらず窓から差し込むのに、僕の足取りは昨日より重かった。文化祭準備で役に立てたはずなのに、心の奥では「またできないことが出てくる」と恐れていた。
2. □ 階段を上るとき、友人が「先行ってるね」と軽く言う。笑って返すけど、内心では「待って」と叫んでいた。追いつけない歩幅が昨日の自信を少しずつ削っていった。
3. □ 教室に着いた瞬間、「昨日頑張ってたじゃん」と声が飛ぶ。褒められているのに、胸には針が刺さる。頑張ったのに“できなかったこと”の方が大きく心に残っていたから。
4. □ 明日香が「おはよう」と声をかける。彼女の笑顔は太陽みたいに自然で、僕の心を温めるのに、それをまっすぐ受け止める自信がなくて視線を逸らした。
5. □ タブレットに《おはよう》と打つ。今日は文字が揺れていた。誤字はなかったのに、自分の心が誤魔化しているみたいで胸が詰まる。
6. □ 明日香は気づかないふりをして「今日も一緒にやろうね」と笑った。優しさが自然だからこそ、涙が込み上げる。僕はまた返せなかった。
7. □ 授業中、先生に当てられる。「水城、読んでみよう」声を出そうとした瞬間、喉が詰まり、鼻に抜ける音しか出なかった。
8. □ 教室に笑い声が走る。誰も悪意がないと分かっている。でもその一瞬で「僕は普通にできない」と世界中に告げられた気がした。
9. □ 先生が「代わりに誰か」と言った。心臓がぎゅっと掴まれる。存在を否定されたようで、消えたくなった。
10. □ 明日香が小声で「大丈夫だよ」と囁く。その一言が細い糸になって、絶望に沈む心をなんとか繋ぎとめてくれた。
11. □ 昼休み、箸を持つ手が震えて米粒をこぼした。隣から「また?」と笑い声が漏れる。冗談だと分かっていても胸に鋭く突き刺さる。
12. □ 落とした箸を拾おうとするが、指は思うように動かず。明日香がさっと拾って渡してくれる。「誰でも落とすよ」と自然に笑った。
13. □ タブレットに《ごめん》と打った。けれど本当に言いたかったのは「情けない自分を見ないで」だった。
14. □ 「謝らなくていいよ」と明日香は首を振る。その笑顔に、涙腺が熱くなる。強がりが全部剥がれていくみたいだった。
15. □ 放課後、文化祭準備。机が運ばれ、ペンキの匂いが漂い、教室は活気で満ちていた。僕はその中で小さく息を吐いた。
16. □ 「蓮は段ボール押さえて!」任された役割。小さくても“自分にできること”を見つけられて心が少し安定した。
17. □ でも指が震えて端を潰してしまい、「もっとしっかり!」と声が飛ぶ。謝りながら、胸に重石が乗る。
18. □ 明日香が隣に来て「二人でやればいいよ」と言った。手が触れた瞬間、熱が走り、心臓が跳ねた。
19. □ 「上手くできてるよ」と彼女が笑う。信じ切れない。でも信じたいと強く願った。
20. □ みんなの笑顔と賑やかな声の中で、僕は孤独を感じていた。支えがあっても、孤独は簡単には消えない。
21. □ 《一緒にいてくれてありがとう》と打つ。明日香は「当たり前だよ」と微笑んだ。その言葉が奇跡に思えた。
22. □ 涙がまた滲んだ。当たり前が、僕にとってどれだけ特別か。胸の奥で熱がじんわり広がった。
23. □ 準備が終わり、机を戻すとき腕が震えて押せなかった。クラスメイトが代わりに押して「助かる!」と笑った。
24. □ 笑顔に混じる自分の無力感。できない現実だけが胸に残り、視線を床に落とした。
25. □ 「蓮はこっち手伝って」と明日香が呼んだ。画用紙をまとめるだけなら僕にもできた。
26. □ 指が震えて端が少し折れてしまった。でも彼女は「きれいだよ」と言った。その優しさに目が潤んだ。
27. □ 《ほんと?》と打つと、彼女は迷いなく頷く。「ほんと。誰よりも丁寧」その声が胸に沁みる。
28. □ その一言に心がじんわり温かくなった。涙が込み上げて、慌てて瞬きを繰り返した。
29. □ 窓の外は夕陽に染まり、街の灯りが滲んでいる。教室の空気は疲れていたけど、不思議と優しかった。
30. □ 「明日も一緒にやろうね」彼女の声が夜に残り、僕の心に深く刻まれた。
31. □ タブレットに《うん》と打った。文字は揺れたけど、心は確かに頷いていた。
32. □ 教室を出ると、廊下の静けさが二人を包み込む。足音だけが重なって響いた。
33. □ 「今日はどうだった?」と明日香が尋ねる。《むずかしかった》と打つと、彼女は即座に「でもできてたよ」と返した。
34. □ 迷いのない声。その温かさが胸に広がり、涙を必死にこらえた。
35. □ 帰り道、僕の歩幅は遅い。でも彼女は同じ速度に落としてくれた。その優しさに胸が熱くなる。
36. □ 家に着き、母が「どうだった?」と聞く。《むずかしかったけど、たのしかった》と打った。
37. □ 嘘じゃない。本当にそう思えた。母の笑顔を見て、涙が少し滲んだ。
38. □ 夜、布団の中で今日を思い返す。笑い声もあった。悔しさもあった。でも支えもあった。
39. □ 「僕は未完成」その言葉が胸で反響した。でも、未完成でもいいと少し思えた。
40. □ 明日香の「当たり前だよ」が耳に残っている。その当たり前が、僕には宝物だった。
41. □ 涙がまたこぼれた。でも苦しみだけじゃない。救われた涙。温かさが混じっていた。
42. □ 《いてくれてありがとう》と打って画面を見つめた。保存も送信もしなかった。自分だけの秘密にした。
43. □ 画面に映る顔は赤く腫れていた。でも目には光が宿っていた。昨日までの僕にはなかった輝きだった。
44. □ 「未完成でもいい」そう思えるようになった。彼女がいてくれるなら。
45. □ 夜が更ける。涙の跡を抱いたまま、僕は眠りに落ちた。
46. □ 夢の中で文化祭の準備が続いていた。僕は不器用に手を動かし、彼女が隣で笑っていた。
47. □ 笑顔を見て、胸の奥に安心が広がった。夢だと分かっていても、それで十分だった。
48. □ 「一緒にやろう」その言葉が夢の中でも響いていた。
49. □ 涙を流しながら眠ったのに、夢の僕は笑っていた。その違いに少し救われた。
50. □ 朝が来ても未完成なまま。でも昨日よりは少し前に進める。そう信じながら目を閉じた。
51. □ 翌朝、目覚めたとき瞼はまだ腫れていた。鏡に映る顔は泣き腫らしていて、それでもどこか晴れやかに見えた。
52. □ 学校への道。足はやっぱり重く、歩幅も小さい。それでも「昨日より少しだけ前へ」と心で唱えながら進んだ。
53. □ 途中で友人に追い越される。「遅いな」と笑われた。僕は《ごめん》と打つが、本当は謝りたくなかった。
54. □ 「気にすんなよ」と軽く返される。その言葉に救われたような、余計に苦しくなったような、不思議な感覚が残った。
55. □ 教室に着くと明日香が手を振っていた。「おはよう!」その声だけで、不安が少し薄れた。
56. □ 《おはよう》と返す。今日は少し文字がまっすぐに並んだ。それが小さな自信になった。
57. □ 授業でまた当てられる。声は途切れた。笑いも起きた。でも昨日ほど胸は潰れなかった。
58. □ 明日香の「大丈夫だよ」という視線があったから。声にしなくても、確かに伝わるものがあった。
59. □ 昼休み、また箸を落とした。けど今日は自分で拾えた。それだけで胸が少し熱くなった。
60. □ 明日香が「ナイス」と笑った。小さな成功をちゃんと見てくれる。その視線にまた救われた。
61. □ 放課後の文化祭準備。僕は画用紙をまとめる役に回った。昨日よりも震えが少なくなっていた。
62. □ 「丁寧だね」と言われた。胸の奥が少し熱くなる。初めて“認められた”気がした。
63. □ 明日香が「昨日より早いね」と笑った。その笑顔が僕を強くした。
64. □ 《うん》と返す。文字がぶれなかった。それだけで嬉しかった。
65. □ 作業が進む。教室に活気が広がる。その中で僕は初めて“役に立てている”と思えた。
66. □ 涙が滲んだ。今度は悔しさじゃない。安堵の涙だった。
67. □ 明日香が「蓮の分もちゃんと飾るね」と笑った。胸が熱くなり、涙がこぼれた。
68. □ 《ありがとう》と打つ。彼女は「こちらこそ」と笑った。その笑顔が心に深く刻まれた。
69. □ 準備が終わり、片付けの時間。僕は机を少し押せた。ほんの少し。それでも自分でできた。
70. □ 誰も褒めなかった。でも、自分の中で大きな拍手が鳴っていた。
71. □ 明日香が「頑張ったね」と小声で言った。その言葉が涙を引き出した。
72. □ 帰り道、並んで歩く。僕の歩幅は小さいけど、昨日よりも確かに進んでいた。
73. □ 彼女が合わせてくれる。その当たり前が奇跡に思えた。
74. □ 家に着き、母に「今日はどうだった?」と聞かれる。《できた》とだけ打った。
75. □ 母は驚いたように笑顔になった。その笑顔に胸が熱くなった。
76. □ 夜、布団の中で思い返す。できないことはまだ多い。でも“できたこと”が今日はあった。
77. □ その事実が、昨日までの僕にはなかった光を与えていた。
78. □ 《ぼくはここにいる》タブレットにそう打った。保存して画面を閉じた。
79. □ 画面に映る自分の顔は泣き腫れていた。でも少しだけ笑っていた。
80. □ 「未完成でもいい」そう強く思えた。
81. □ 明日香がいる限り、僕は進める。
82. □ 涙がまたこぼれた。でも温かい涙だった。
83. □ 「ありがとう」声にならない声が胸で響いた。
84. □ 明日香にはまだ言えない。けれどいつか必ず伝えたい。
85. □ その願いが胸に残り、夜を照らした。
86. □ 眠りに落ちる直前、彼女の笑顔が浮かんだ。
87. □ 夢の中で文化祭が始まっていた。僕は彼女と並んで笑っていた。
88. □ 未完成の恋模様は夢の中でも続いていた。
89. □ 涙と笑顔の両方を抱きしめて。
90. □ そのどちらもが、僕の声だった。
91. □ 未完成の声が、少しずつ誰かに届いていく。
92. □ そう信じた瞬間、胸が温かくなった。
93. □ 涙が止まらなかった。でも止めなくていいと思えた。
94. □ 涙は弱さじゃない。僕の声だから。
95. □ 明日香がいてくれる。それだけで十分だった。
96. □ 未完成の歩幅でも、彼女となら進める。
97. □ 未来は遠い。でも確かに近づいている。
98. □ 未完成の恋模様は、今日もまた続いていく。
99. □ 涙と笑顔を交互に抱えながら。
100. □ 僕は眠りに落ちた。未完成の声を胸に抱き、明日も彼女と歩けますようにと願いながら。
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