第九章:監視の連鎖

土曜の夜の侵入以来、俺の生活はさらに息苦しくなった。

外出しても、家にいても、監視の影が常に頭の片隅にある。

通勤途中にちらりと後ろを振り返ると、誰もいないのに視線を感じる。

歩き方や立ち振る舞いが、誰かにチェックされている感覚が消えない。


会社に着くと、デスク上の書類や文房具の配置が微妙に変わっている。

昨日までと違うだけなのに、俺の神経は完全に張りつめる。

監視者は、生活のあらゆる瞬間を掌握し、俺の行動を追い詰めているのだ。


帰宅すると、郵便受けに新しい封筒が入っていた。

中身は、俺の一日の行動を時系列で示したメモと、外出先で撮られた写真。

スーパーで買い物をしている姿、エレベーターで立ち止まる瞬間、喫茶店でスマホを見る姿。

生活の一部始終が、監視者の手によって切り取られている。


その夜、布団に潜り込むと、カーテンの隙間に影が揺れる気がした。

耳を澄ませば、廊下から規則正しい物音が聞こえる。

生活空間そのものが監視の網に組み込まれ、逃げ場は存在しない。


俺は思った。

「これは……偶然じゃない。完全に意図された監視だ」

恐怖が心を支配し、呼吸が浅くなる。

生活のリズムは、監視者の意のままに操られている。

朝起きる瞬間から夜寝るまで、俺は見られている。


日常の何気ない行動も、食事も、仕事も、買い物も、すべて監視の対象。

友人と会う時間さえも、監視者の記録に残される。

俺は孤立し、精神的に追い詰められていく。

逃げられない恐怖が、体の隅々まで染み渡る。


「……どうすればいいんだ」

小さく呟き、布団を握りしめる。

監視者の異常な執着が、生活全体に連鎖して押し寄せる。

そして俺は、日常そのものが恐怖の舞台であることを、深く理解するのだった。

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