16、芸術
ある時、二人の若いカップルが美術館を訪れた。
二人は芸術に詳しくなかったが、男の方は彼女にいい所を見せつけようと、密かに張り切っていた。
そんな二人が最後の展示室に入った時のこと。
四方の壁際に彫刻作品がずらりと並び、空間の真ん中に長椅子が置かれたその展示室を、二人は時計回りに作品を見て楽しんでいた。
やがて部屋の中央まで来た時、男は白くて柔らかそうな長椅子をジッと見つめて言った。
「これも深いね」
すると彼女は、
「これも作品なの!? 普通の椅子っぽく見えるけど、意外と奥が深いんだね」
と、男の言葉に驚嘆した。
彼女の言葉に、男は欲が満たされていくような感覚を覚えた。
と、その時。
突然、うふふという笑い声が後ろから聞こえた。
二人が振り返ると、そこにはニヤニヤと笑う学芸員のおばさんがいた。
疑問に思う二人。
やがてその学芸員は近づいて来るや、おどけたように男に言うのだった。
「お兄さん、これはただの休憩用の椅子よっ」
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