タイムマシンがやってきた!

川北 詩歩

タイムマシンに乗って

 篠原由人しのはらよしとは、ごく普通の会社員。ある日、玄関先に大きな段ボールが届いた。差出人は『damason未来配送サービス株式会社』。中には光沢のある金属製の機械と、取扱説明書らしき冊子が入っていた。表紙には「タイムマシン Type-3000」と書かれている。


「タイムマシン? まさか詐欺だろ?」


 由人は半信半疑で説明書をめくった。


「過去や未来へ自由に移動可能! ただし、電池は別売りです」


…電池? 由人はキッチンの引き出しから単三電池を8本取り出し、機械にセットした。すると、ピピッと音が鳴り、液晶画面に「行き先を入力してください」と表示された。


「試しに…昨日か」


 由人は昨日の日付を入力し、スタートボタンを押す。すると、部屋がぐにゃりと歪み、一瞬で静寂に包まれた。目を開けると、そこは確かに昨日のリビングだった。テレビでは昨夜のクイズ番組が流れ、テーブルには食べかけのカレーが置いてあった。


「すげえ! 本物じゃん!」


 興奮した由人は、もっと面白いことをしようと考えた。


「そうだ、高校時代に戻って、告白し損ねた美咲ちゃんにリベンジだ!」


 彼は高校3年の文化祭の日を入力し、ボタンを押した。


ガタン!


 次の瞬間、由人は見慣れた教室に立っていた。だが、様子がおかしい。教室には誰もおらず窓の外は真っ暗。時計を見ると深夜2時だった。


「しまった、時間指定し忘れた!」


 慌ててタイムマシンを操作しようとしたが、電池切れの警告が点滅している。


「マジかよ! 単三電池なんて高校にねえよ!」


 仕方なく由人は校舎をうろつき、警備員に見つからないようコソコソ移動した。すると、体育館から奇妙な笑い声が聞こえてきた。恐る恐る覗くと、そこには高校時代の友人、鈴木卓真すずきたくまが奇妙なダンスを踊っていた。


「卓真! 何してんだよ!」


 卓真は驚いた顔で振り返った。


「お、由人じゃん! なんでここに? 俺、未来から来たんだぜ! タイムマシンでさ!」


「は? 俺もだよ!」


 二人は顔を見合わせ爆笑した。どうやら彼も同じ『damason未来配送サービス』からタイムマシンを誤配送されていたらしい。


「で、お前何しに来たの?」


由人が聞くと、卓真は照れくさそうに言った。


「文化祭で美咲ちゃんに告白しようと思って…でも、夜中の体育館に来ちゃった」


「一緒じゃん! でも電池切れで動けねえよ!」


 二人は途方に暮れ、体育館のマットで寝ることにした。すると、朝方、タイムマシンが勝手に起動。電池がなくても動く「緊急帰還モード」が発動したらしい。二人は一瞬で現代の由人の家に戻った。


 だが、問題はそこからだった。由人のリビングには、なぜか美咲がいた。


「え、由人? 卓真? なんで二人とも…?」


 彼女もまた、誤配送されたタイムマシンでここに来ていたのだ。気まずい沈黙が流れる中、三人は顔を見合わせた。


「で、誰か説明してくれる?」


 美咲が睨むと、二人は同時に叫んだ。


「美咲ちゃん、俺、昔から好きだったんだ!」


 その瞬間、タイムマシンがまた誤作動を起こし、三人は揃って江戸時代に飛ばされた。着物姿の町人に囲まれながら、由人は思った。


「次はちゃんと説明書読もう…」


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムマシンがやってきた! 川北 詩歩 @24pureemotion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ