第九章 残された資料3

映像の最後のフレームには、取り出し口から落ちる缶と、微かに映る二人の姿が残っていた。

しかし、その顔は次第にぼやけ、誰か分からない。


「……これを公開しても、誰も信じないだろうな」

中川がつぶやいた。

「でも、真実はここにある。俺たちの体験も……」


佐藤はノートを閉じ、映像をハードディスクに保存した。

「……誰かが見てくれることを願うしかない」


そして自販機のことを思い返す。

赤い筐体、冷気、光、そして落ちる缶。

すべてが、人間の記憶や時間を封じ込める“生きた機械”の証拠だった。


外の風が吹き抜け、冷たい匂いだけが部屋に残った。

静寂の中で、まだどこかで“最後の缶”が落ちる音が聞こえるような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る