第九章 残された資料2

ノートには、住民たちの証言、監視中に落ちた缶のラベル、匂い、映像の記録などが断片的に記されていた。

だが、一部のページは謎の液体で汚れ、文字が読めなくなっている。


「……この部分、木村が書いてたのに……消えてる」

中川がページを押さえながら言った。

「もしかしたら……あの缶に吸い込まれたのかもしれません」


佐藤は黙ったまま、古びた缶を手に取った。

冷たい金属の感触と、かすかに漂う匂いが、過去の記憶を呼び覚ます。

目の前に浮かぶのは、亡き祖母の笑顔、子どもの頃の海辺の景色、消えた友人の声。


「……やはり、この自販機は……記憶を吸い込む……」

佐藤の声は震えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る