第五章 住民の証言3
最後に取材したのは、中年の主婦だった。
彼女は最初、取材班を警戒していたが、自販機の話題になると急に顔を曇らせた。
「……あれで買っちゃったのよ、ジュースを。子どもと一緒に」
「どんなジュースだったんですか?」と佐藤が尋ねると、彼女は小さく首を振った。
「見たことないラベルだった。赤黒い模様で……名前も読めなかった。
息子は面白がって、一気に飲んじゃったの」
主婦の声は震えていた。
「その夜から、息子は“誰かに名前を呼ばれる”って言って眠れなくなったのよ。
夜中になると、窓の外から“おいで”って声がするんだって……」
彼女はそれ以上、語ろうとしなかった。
取材班の胸に、重苦しい沈黙が落ちた。
この自販機はただの都市伝説ではなく、人の“記憶”や“命”と関わっているのではないか――
そう確信せざるを得なかった。
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