第五章 住民の証言2

次に話を聞いたのは、20代の女性だった。

彼女は「関わらないほうがいい」と言いながらも、小さな声で体験を語った。


「私、夜遅くに自販機で缶コーヒーを買ったんです。

 出てきたのは、子どものころに父がよく飲んでたブランドでした」


彼女は震えながら続けた。

「缶を開けたら……中から父の声がしたんです。

 “勉強頑張れよ”って。

 そのときもう父は病院にいて、喋れる状態じゃなかったのに」


記者の木村が息を呑む。

「……それで、どうなりました?」


女性は顔を伏せた。

「気づいたら缶は空になってて、でも……その日から父の意識が戻らなくなったんです」

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