第五章 住民の証言1

藤田の失踪から二日後。

取材班は自販機のある町で聞き込みを始めた。


まず話を聞いたのは、近所に住む70代の男性だった。

彼は日焼けした顔に皺を刻みながら、低い声で語った。


「……あの自販機か。俺も一度だけ、買ったことがあるよ」


記者の木村が身を乗り出す。

「どんな飲み物が出てきたんですか?」


男は少し考え込み、そして眉をひそめた。


「小学校のときに飲んだ“フルーツ牛乳”だった。瓶のやつだ。

 でもな……あれを一口飲んだら、急に昔の運動会の光景が蘇ったんだ。

 親父が笑って、母ちゃんが弁当を広げて……俺のことを呼んでいた」


彼の目は潤んでいた。

「……でも、帰り道の記憶が消えてるんだ。気づいたら家に戻ってて、足が泥だらけだった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る