第三章 補充員のいない自販機2

午前二時を回ったころ、異変が起きた。


自販機の照明が、ふっと暗くなったのだ。

消えたわけではない。ただ、蛍光灯が寿命を迎える直前のように点滅を繰り返している。


「録れてるか?」

佐藤の声に、藤田はカメラを確認してうなずいた。


その瞬間――「カラン」という金属音が自販機の内部から聞こえた。

まるで奥で何かが落ちたような、不自然に乾いた響き。


「……今の、聞きました?」

中川の声は震えていた。


次いで、投入口の奥から“何か”が動く影が見えた。

小さな手のような、あるいは誰かの指のような……。


「おい、今の……人影か?」

藤田がカメラをズームさせる。だが、影はすぐに奥へ引っ込んだ。


そして、取り出し口から「ガコン」と音を立て、缶が一本転がり出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る