第三章 補充員のいない自販機3
田が恐る恐る取り出した缶には、薄汚れたラベルが貼られていた。
銘柄は「グレープソーダ」。1990年代に姿を消した、今では幻となった飲料だ。
「……これ、本当にやばいんじゃないか?」
中川の顔は青ざめていた。
その時、監視カメラの映像が突然ノイズにまみれた。
砂嵐のような画面の奥に、一瞬だけ“人の顔”が浮かんだ。
それは確かに、取材班の誰でもなかった。
長い髪の女の顔が、自販機のガラス面に貼りつくように映り込み、すぐに消えたのだ。
「おい、今の見たか!?」
藤田が叫ぶ。
だが次の瞬間、再び「ガコン」と音がし、二本目の缶が落ちてきた。
今度は、F氏――カメラマン藤田が子どものころ、遠足で必ず買っていたという銘柄だった。
「……なんで、俺の……?」
藤田の手が震えていた。
冷たい缶の表面には、彼の名前を呼ぶかのように小さく傷が刻まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます