第三章 補充員のいない自販機3

田が恐る恐る取り出した缶には、薄汚れたラベルが貼られていた。

銘柄は「グレープソーダ」。1990年代に姿を消した、今では幻となった飲料だ。


「……これ、本当にやばいんじゃないか?」

中川の顔は青ざめていた。


その時、監視カメラの映像が突然ノイズにまみれた。

砂嵐のような画面の奥に、一瞬だけ“人の顔”が浮かんだ。


それは確かに、取材班の誰でもなかった。

長い髪の女の顔が、自販機のガラス面に貼りつくように映り込み、すぐに消えたのだ。


「おい、今の見たか!?」

藤田が叫ぶ。


だが次の瞬間、再び「ガコン」と音がし、二本目の缶が落ちてきた。

今度は、F氏――カメラマン藤田が子どものころ、遠足で必ず買っていたという銘柄だった。


「……なんで、俺の……?」

藤田の手が震えていた。


冷たい缶の表面には、彼の名前を呼ぶかのように小さく傷が刻まれていた。

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