第三章 補充員のいない自販機1
その日の夜、取材班は自販機の前で簡易的な監視を行うことにした。
佐藤は言った。
「本当に“誰も補充してない”のか確かめるには、夜通し張り込むしかない。明け方まで粘ってみよう」
住宅地の一角とはいえ、深夜になると人通りはほとんどなくなる。
街灯は錆びつき、虫が光に群がり、ただ遠くの国道を走る車の音がかすかに聞こえるだけだった。
ワゴン車の中にカメラを設置し、外には三脚を立てて定点撮影を開始する。
中川は緊張した面持ちでメモを取っていた。
「……なんか、空気が冷えてきませんか?」
彼の呟きに、藤田は煙草をくわえたまま答えた。
「気のせいだろ。夜は冷える」
しかし、その冷たさは自然の気温変化とは違う“湿った冷気”だった。
自販機の周囲だけがじわりと冷え込んでいるのだ。
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