第二章 現地調査2

「飲んでみましょうか?」

木村が、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。


「おいおい、大丈夫かよ」

中川が慌てる。だが木村はプルタブを引き、迷いなく口をつけた。


「……うん、懐かしい味がする。

 小学生のころ、夏祭りで飲んだ味だ。

 あれから一度も飲んでないはずなのに、ちゃんと覚えてる」


彼女の表情は一瞬、恍惚としたように緩んだ。

だが次の瞬間、目が大きく見開かれた。


「――あれ?」


「どうした?」佐藤が駆け寄る。


木村は驚いたように周囲を見回し、震える声でつぶやいた。

「……花火が、聞こえる。祭囃子の音まで。ここじゃない……子どものころの夏祭りの、音」


誰も声を発していないのに、彼女の耳には確かに音が届いているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る