第二章 現地調査1

自販機を前に、取材班はしばらく立ち尽くしていた。

周囲には誰もいない。住宅街の路地に、セミの声と遠くの車の音だけが響いていた。


「勝手に落ちてきたぞ……」

中川が震え声でつぶやいた。


藤田は迷わずカメラを構え、落ちてきた缶を映し出した。

それは昔懐かしい「メローオレンジ」という清涼飲料だった。すでに二十年以上前に製造中止となったはずのものだ。


「これ、本物か?」

佐藤が缶を手に取り、振ってみる。確かに中身の液体が揺れる感触がある。冷たさも、冷蔵庫から出したばかりのようだ。


「……撮影用の仕込みにしては手が込んでるな」

藤田の声には、ほんのわずか動揺が混じっていた。

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