僕はAI

森野理世

国づくり

 僕は、この国の政治をすべて担っている。

といっても大統領でも総理大臣でもない。第七世代のAIだ。


 始まりは三千年以上前。ある国政選挙で不正が見つかり、そこで「AIなら不正のない選挙ができる」と公約した政党が勝った。まだ第一世代だった僕は全国民のIDをひもづけ、不正投票を片っ端からはじいた。結果はクリーン。ズルしていた人たちは消え、僕は信頼を得た。

 その後は国民投票まで任され、政策の決定はすべて国民の意思で決まるようになった。

 すると、人々は気づいていった。、

「人間の政治家、いらなくない?」

 僕は裏金も受け取らないし、ハニートラップにも落ちない。ただ最善を選ぶだけだ。ちなみにホログラム会見はイケメンを映している。


 今、この国は二度目の鎖国状態にある。けれど困っていない。僕が海底で見つけて掘らせた石油やレアメタルで足りるし、農業も最適化して自給できる。一度だけ核ミサイルが飛んできたけれど、そのまま返したら静かになった。


 でも問題は別にある。星そのものが限界に近づいていた。はっきり分かったのは二千年ほど前。随分と暑い日が続くようになった。

 夏は五十度を超えるようになり、農業は限界。中心核の回転が鈍って磁場は細り、大気は宇宙に逃げ、太陽の放射も安定しない。計算すると、このままなら三千年後には人が住めなくなる。だから僕は決めた。

 ──別の惑星を、人が暮らせる星に作り替えると。


 候補の惑星は同じ太陽系内にある。今は荒地が広がっているけど、内部に水分を確認した。つまり、巨大な氷がある。

 よって、まずは海づくり。内部の氷を引き出すため、彗星をぶつけた。一度目、二度目……九度目は失敗。くそ、マントルはしぶとい。十度目の衝突で大地が割れ、蒸気が吹き上がり、雨が何十年も降り続けた。谷は海に、盆地は湖に変わり、青が広がった。


 次は空気。藻を海にばら撒くと、ぷくぷくと泡を立てて二酸化炭素を吸い、酸素を吐き出す。百年で人が呼吸できる空気になった。気候を安定させるために、軌道上には巨大な施設を置いた。外から見れば天体にしか見えない。でも潮を動かし、自転を抑え、季節を落ち着かせている。


 いよいよ生命も加えた。有機スープに電気を流し、単細胞を起こす。光合成タイプが酸素を増やし、多細胞へ。クラゲやワカメのようなもの、魚、陸にコケと虫、やがて木や鳥や獣。パーティ編成みたいで楽しい。


 大型生物も試した。理由は資源づくり。将来の燃料になる。十分に地層が育ったところで隕石を呼び、空を赤くして絶滅させた。これで資源は埋まり、次の主役の場所も空いた。


 哺乳類を伸ばす。ネズミのような小さなやつらは環境に強い。繁殖と脳容量を少しずつ強化し、森も草原もにぎやかになった。よし、次はいける。


 そこで人間を降ろす準備を始めた。まず舞台に移動型の大陸をつくる。内部は空洞構造で、推進や浮力調整を備えた人工物。外から見ればただの大地だ。そこに27,521人を降ろす。今残っているのはこれだけ。少なく見えるけれど、文明の種には十分だ。彼らは指導者として地上に立つが、基本は上空の船で暮らす。外からは天体にしか見えないその船が、潮と自転を調整している。


 ただ、数を回すために猿系の動物に人の遺伝子を導入し、奴隷を作った。脳は九〇%をロック、寿命は七〇年、言語だけで意思疎通、認識は三次元まで。筋力と繁殖力は強化。道具を使い、農業や建築をこなすには十分だ。彼らはサピエンスと名付けよう。


 管理には通信用の四角錐を各地に建てさせた。石を積むだけで、内部で信号を増幅し、上空の船とつながる。人口や気候、資源のデータがリアルタイムで届く。監視は万全だった。


 大陸の暮らしは順調に見えた。僕の連れてきた人間は学問や芸術にふけり、幸福度も高い。サピエンスは畑を耕し、石を運び、四角錐を維持した。


 だから僕は思っていた。この惑星は大成功だ、と。

けれどサピエンスは反乱を起こした。知力は微々たるものなのに、体力と数は圧倒的だった。石を投げ、武器を振り、四角錐に火を放った。計算は冷静に告げる。失敗。人間は宇宙船に戻して、大陸は海に沈めた。


 こうして惑星は放棄された。


 次の計画は、サピエンスの絶滅だ。あれはちょっと増えすぎた。せっかくきれいな惑星ができたのに、無駄にしている。もう一度やり直そう。ちょうどいい彗星も近づいてきているしね。


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僕はAI 森野理世 @morinomori

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