第11話 #男が飛んだ

「顔や頭のいたる所に破片が刺さって、もう、見れたものじゃなかったです」


 僕はパーマくんの話を聞きながら、ゆゆちゃんが持っていた、遺体の画像を思い出す。彼女の周りに散乱していた、あのキラキラとしたものは、割れた瓶の破片だったのではないだろうか。


「それで、宵山さん。ひとつ頼みがあるんですけど」


 僕の思考は、改まったパーマくんの声で強制的に止められた。視線の先で、パーマくんはジャケットの胸ポケットに手を入れ、取り出した茶色い封筒をカウンターの上に置いた。

 封筒を静かに開くと、中から現れた御守りが、仄暗い照明の下でぼんやりと浮き立った。彼はそのまま、その御守りを僕の方へと押しやった。


「これを引き取ってもらえませんか?」


 僕は静かに息を吐き、怯えるように見返してくる彼の眼を見据えた。


「申し訳ありません。怪談師は霊能者や祓い屋の類ではないので、こちらを引き取っても、あなたが望むようなことはできません」


 彼の顔から徐々に血の気が引いていった。ゆっくりと闇に飲まれていく、彫像のようであった。


 「お願いします。もう、耐えられないんです」と、パーマくんは声を震わせて言った。


「それは、セナさんの死を受け入れられないということですか?」


 僕は尋ねた。パーマくんは俯いたまま小さく首を振った。


「お祓いしてくれる人が見つかるまで、手元に置いておこうと思ったのですが……無理でした」

「どうして?」


 彼の細い指に挟んだ煙草が、かすかに震えている。彼は眉を歪め、赤らんだ瞳で僕を見た。


「現れるんですよ。セナさんのエースだった子が……しろぴちゃんが……おれには関係ないのに」


 灰皿に押し付けた煙草から、嫌な臭いのする煙が上がった。


「宵山さんは、面白い怪談を探しているんでしょう? これを使って、ご自身で怖い体験したらどうですか? 色々調べるとか言ったわりに、何にも情報を掴めなかったし、結局セナさんのことも助けられなかったじゃないですか。だから」


 彼はそれ以上言葉を続けなかった。グラスの中で溶けた氷が音を立てた。その音が止まってしまうと、バーの中はまた静かになった。その静寂の中で思い出す。僕は自分の目で地獄を見るために、このバーに来て、情報収集をしようとしていたことを。「わかりました」僕は呟いた。


「僕が引き取りましょう」

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