第7話 #セナがもらった御守り
昨日の夜、初回の指名が入ったんだよね。
初回って、本指名に繋がることもあるからそこそこ嬉しいわけよ。しかも指名してくれた子がめちゃくちゃ可愛くてさ。あれはテンション上がったわ。顔もスタイルもモデル並みだし、飲み方も上品で、話も面白いの。ほんと非の打ち所がなかったよ。
ホストクラブに来た理由?
あー、なんか彼氏にフラれたストレスって言ってたな。あんな可愛い子をフるなんて、ほんと見る目ない。
でもさぁ、初回ってあんま儲かんないわけ。正直、途中からちょっと渋いな、って思ってたんだけど、とにかく可愛いからさ。ゆっくり育てて風俗に沈めれば、けっこう稼げると思ったんだよ。それで、ゆくゆくはエースに? とか色々妄想してたらさ、「セナくん、ちょっと変なこと言ってもいい?」って、急に真面目な顔で聞いてきたの。いいよって言ったらその子。霊感あるらしくて、店の入り口からこっちを見てる女がいるって言うんだよ。よせばいいのにオレも「どんな女?」って聞いちゃったんだよね。そしたら、「ティアラ? みたいなのを被った若い女の子だよ。ピンク色のフワッとしたスカート穿いてて、ロングの黒髪。色が白くて可愛いよ」とか言うわけ。この間話したじゃん。ティアラを被った女。あいつが店に着いてきちゃったんだよ。
彼女に「心当たりある?」とか、「お客さん?」とか色々質問されたけど、怖すぎてなにも答えられなかった。たぶんオレ、恥ずかしいくらいに震えてたと思う。女に心当たりがあるとかじゃなくて、付き纏われてる事実が怖かったんだ。それでもなんとか彼女と話そうと思ったんだけど、ちょうど時間になっちゃって。でね、彼女が帰り際に、御守りみたいなのをくれたんだ。
聞いたら、彼女の両親が払い屋? 拝み屋? 詳しい名前は忘れちゃったけど。なんかそういう系の仕事をしてるらしくて。その両親がご祈祷したものみたい。これを持ってれば幽霊が近づいてくることはないから、ちゃんと持っててね。って、結構強めに言われたよ———そのお守りがこれ。
※
そう言ってセナが渡してきたのは、三センチほどのころんとした巾着だった。その表面には漢字の刺繍がある。和柄の生地を触ってみると、中に綿が入っているのか、ふっくらした感触があった。
「もっと仰々しいものかと思ってましたけど、普通の巾着ですね。御守りというより、香り袋みたいな」
中身を確認したいと思ったが、二重叶結びで綴じられた口は、糸で縫い付けられているようで、開くことが出来ない。仕方がないので、糸の隙間から覗こうと、お守りを顔に近づけた途端、
「ダメダメ! 中を見たら効果が無くなるだろ!」
セナが僕の手から強引に御守りを奪った。
「ああ、失礼しました」
「ほんと勘弁してくれよ。中は見ちゃダメって言われてるんだから」
ふん、と鼻を鳴らすセナの、その強気な態度に僕は妙な苛立ちを覚えた。この男は神に護られるべき人間ではない。むしろ、罰せられる側の人間である。僕は彼を、彼らを恨んでいるのか、あるいは、めろにゃと話した結果、『ホストは悪である』という思考が身に付いてしまったのか、どちらにせよ、その日の僕は会話を弾ませることが出来なかった。
「すみません。今日は体調がすぐれないので、お先に失礼します」
そう言ってバーを出たのは、午前二時を回った頃だった。
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