姫椿の下に



 中学を卒業して、もう7年。


 まさか、この場所にもう一度帰ってくるなんて……。




 私は、今年大学を卒業して母校の音楽の教員になる。




 新任のあいさつの予行練習のつもりで朝礼台に上がると、色々なものが見えた。


 そう、あの頃の自分さえも……・


 十五の春は、別れの春。


 私は、昔この校庭の片隅に淡い初恋を葬った。




 ★




 いつも、にぎやかでクラスの人気者だった『彼』。


 いつも、怒ってばかりの委員長の『私』。


 Jリーガーになりたいなんて、本当に子供らしい夢を、真摯な瞳で言える彼のことを、クラスメイトの前では馬鹿にした私だけど、本当は、とっても羨ましかった。


 私はね、その頃歌手になりたかったんだけど、恥ずかしくって言えなかった。


 私は、意地を張ったまま地元の進学校に合格し、初恋の彼はサッカーの名門S校に進学が決まった。


 今思えば、中学生ってまだまだ子供なんだから、できるできないにかかわらず、大きなこと言っても構わなかったんだよね。


 なんだか私、子供くせに変に大人フリをして、損したことがいっぱいある。


 昼休みに、バレーボールをしないで本を読んでたこと……。


 テスト前だからと言って、アイドルのコンサートに行かなかったこと……。


 委員長だかと肩意地を張って、修学旅行中みんなと一緒に男子の部屋にこっそり行かなかったこと……。


 せっかく、書いたラブレターを彼に渡さなかったこと……。


 卒業式に、自分で第二ボタンを貰わなかったこと……。




 数え出したら、きりがない。




 *




 ゆっくりと古傷を確かめに行く。


 そう、白い山茶花の下に……。


 初めて書いたラブレターとやっと手に入れた彼の第二ボタンは、校庭の角のこのさざんかの下に、静かに眠ってている。


 一歩一歩近づくごとに、心があんまりうずくので、古傷が開いて血が出てくるんじゃないかと思った。


 でも、心配はいらなかった。


 そこには、遅咲きの姫椿と呼ばれる白い山茶花の花が咲き誇っていた。




 私の胸に残っていた後悔の種も、いつか芽吹くのでしょうか?



 そしてそれは、どんな花が咲くのでしょう……。




 * E N D *

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