不器用な父

野口マッハ剛(ごう)

父の病気

 父は不器用な性格。

 例えば、オレの質問に一般論でしか答えられない。他にも仕事の世渡りは失敗。出世とは縁がなかった。


 オレはフリーターの三十五歳。

 父は今年の夏で定年を迎える。


 そんな六月末に父は入院した。

 背中が痛いと言い出したのは五月頃。

 整形外科のレントゲンでは異常なしだったがCT検査で胸椎の圧迫骨折が見つかった。おまけに採血結果も悪かった。骨粗しょう症の疑いもあった。

 血液内科で入院中にオレと父は医師からこう告げられた。


 血液のガンの可能性。心筋梗塞の可能性。


 オレは意識が遠ざかりそうになるのを抑える。あんなに元気な父が死んでしまう可能性? 一人で帰宅して言葉に出来ない不安に襲われる。


 そう言えば、東京に一人暮らしのオレの妹がいる。メッセージを短く要件だけ伝える。父がガンだと。


 後日、妹は東京から一時的に帰ってきて、久しぶりの家族三人で血液内科と泌尿器科の医師から父の状態について説明を聞く。実は腎臓ガンの疑いもあった。

 妹はすっかり大人になっていた。オレよりもしっかりした妹。父と妹は久しぶりの会話を笑顔でしている。オレはうまく妹と話せなかった。疲れているから。


 妹は東京へと帰った。


 父は退院する。相変わらず背中が痛いと訴える。ペットCT検査というガンを見つけるものを受けに二人で通院する。

 結果は、鼻の辺りと腎臓の部分が赤いCT画像。これには耳鼻咽喉科と泌尿器科の医師から特殊なケースだと言われた。

 再入院で二泊三日、父は点滴療法を受けて帰宅。オレは段々と疲れが溜まってきていた。仕事も休んで父の世話と介護。父は優しいが背中の骨転移で満足に動けない。痛い痛いと訴える父。


 日々の家事はオレが全部している。介護保険が使えるが父は頑固で利用しようとしない。オレはヘトヘトだった。体重は五キロ減った。


 ある日の朝に、父は起き上がることが出来ずに、痛い痛いと訴える。呼吸が乱れている。オレは救急車を呼んだ。


 救急車に乗る。父は手を握ってくれとオレに頼んだ。神様、父を助けてください。父は不器用で母を泣かせたかもしれない。でも、大切なこの世でたった一人の父なのだ。


 大学病院の救急外来。父は痛み止めの点滴で一時的に呼吸は落ち着く。しかし、父は背中や脇腹が痛いと訴える。父は入院となった。


 明日から放射線治療。父の鼻の辺りのと腎臓のガンのどちらを先に治療するか医師の間でも意見が分かれるらしかった。


 病棟の個室。

 オレは例えばこんな話をする。


 「孫が居たら嬉しい?」


「お前とあーちゃん(妹)が居てくれたら孫はいらない。ありがとう」


 オレ、お父さんの子どもで良かったよ。


 不器用な父の言葉。


 明日から放射線治療。


 さて、明日からも父の面会だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不器用な父 野口マッハ剛(ごう) @nogutigo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ