Trick or Treat 完結編


【 Trick or Treat】 完結編


「ぴょんしーは本来、うさ瓶ランドではエルフから分岐したとされていて、本当は祝福と幸運をもたらす妖精で物凄く長命なんです。病気にも滅多にならない、筈なんですけど例外があって」


「病気にかかるのか?」


 イオが眉をひそめると、アケはゆっくりと頷いた。


「えぇ、丁度ハロウィンの時期に、突然声が出なくなってしまうんです。何が原因かは分かりません、ハロウィンは闇の要素が強くなるからその影響だとも言われていますけど、そのまま放っておくと腕や足に痛みが出たり動かせなくなって、いずれは命を落としてしまう」


「そんな……あ!この子、最初に会った時に片腕が……」


「翠君勘が良いね。そう、この子は出会った時には既に腕を痛めていた。一時凌ぎで私の治癒魔法が効いたようですけど、それでも病気の進行を止めるものではないんです。止めるには」


 一旦言葉を切ると、アケはテーブルに置いてあるガラス瓶を見た。


「虹水泉の粉が特効薬なのか――ほら?これ使いな」


 彗がぴょんしーに小さく切ったテッシュを渡すと、ぴょんしーは嬉しそうにそれを受け取って残った涙を拭く。


「えぇ、そうなんんです。虹水泉は元々ある種の魔法薬に使われるもので、身体を活性化して病を回復させるとされているんです。ぴょんしーにとってはこれが特効薬になる」


 アケの話は更に続いた。


 この虹水泉は妖精界には存在せず、こちらの世界にしかないもので数年おきに満月のハロウィンの夜にしか花を咲かせない。


 ぴょんしー達はハロウィンの日にだけこちらの世界へ出てこれるが、自分達ではこの花を探す事が出来ない。


 そこで考えついたのが、イタズラ魔法を誰かにかけてそれを解く作用も持つ虹水泉の粉を作って貰えれば、自分達も粉を手に入れられる。


 ぴょんしー達はそう考え、いつの間にかこの方法が浸透していった。


 けど、こっちの世界でこの花が咲くのは満月とハロウィンが重なった時のみ。

 毎年というわけではないので、ただでさえ希少で数の少ない種族のぴょんんしーが尚更減ってきている。


 アケ達のところへ来たぴょんしーも、虹水泉の粉が欲しくてイタズラを仕掛けたが、皆が親切にしてくれるのでイタズラをした事が居た堪れなくなって泣き出してしまったのだ。


「アケさん、なんでそこまで詳しく内情を知っているの?分かっているなら最初から言えば良かったのに」


 コウが不信げにそう言うと、アケは申し訳なさそうに俯いた。


「すみません……最初から知っていたわけではないんです」


「どう言う事だ?」


 彗の言葉に、アケは深くため息を吐いた。


「多分、最初にこの子の腕の手当てをした時から、話せない代わりにこの子は私に断片的な自分の記憶を送ってくれていたようなんです。時間軸もバラバラで本当に断片的なものなので、そこから理解して解釈するまで、私が時間がかかってしまったけれど……今話したのはその記憶から私が推論と解釈をしてまとめた話です」


――合っているのかは、ぴょんしーが言ってくれると思います


 そう言って黙り込んだアケに、ぴょんしーは静かに頷いた。


「アケちゃんの言う通りなの……悪いのはアタシ……」


 鈴を転がすような、可愛らしくて綺麗な声でぴょんしーはそう言って、また泣き出してしまいそうだった。


「泣くなよ、妖精とはいえ女に泣かれると弱いんだ。で、お前さん、もしかして他の仲間も救いたいんじゃないのか?」


 イオが本気なのか冗談なのかわからない態度でそう言うと、ぴょんしーは頷いた。


 もう涙は止まっている。


「本当は、他の皆も救いたい。けど、虹水泉の粉は妖精界に持って行くと消えてしまうの」


「じゃあ、粉じゃなければ持って行けるのかな?」


 アケの質問に、ぴょんしーは少し考えてから頷いた。


「確か……種なら持って帰れるって聞いた事があるわ。でも、もうお花はないしアタシも今夜限りで帰らなきゃ……」


 すると、アケはそっと……結っていた髪をほどき自分のメガネを外すとそれをテーブルへ置いて、代わりに虹水泉の粉が入ったガラス瓶を手に取った。


「時間がない、すみません。皆さんに先に謝っておきます……多分、意識が戻るまで2~3日でしょうから後はお願いします。ぴょんしー、君に会えて楽しかったよ?女の子になってしまって困ったけど、君は悪くない。これを持ってお帰り」


 そう言って、アケはガラス瓶に思い切り自分の魔力を注いで凝縮させ始める。


 瓶の中が瞬時に真っ白い光で満たされていった。


「アケさん?!いくらなんでも治癒魔法をベースにして物質の構成そのものを変成させるのは無茶だよ!」


 コウがそう言って慌ててアケの傍に駆け寄った時には、ガラス瓶の中には小さな虹色の丸い種が数個入っていて――


 アケはそのまま倒れ込んだ、意識はもう既になかった。


 咄嗟にコウがアケを抱き止める。


「無茶な事して……」


 意識をなくしても、アケはガラス瓶だけは離さなかった。


 コウがアケを支えているうちに、イオがそっと近寄ってアケの手からガラス瓶を取るとぴょんしーの前へそれを置き、代わりにアケを抱え上げた。


「無茶な事ばっかりしやがって……コイツ、周りのオレらの事はなんにも考えないのかよ――まぁ、それだけこっちを信頼してるんだろうけどさ。センセイを部屋に置いたらオレも帰るわ、妹が待ってるしな」


 そう言って、イオはアケを抱えて部屋を出ようとし、一瞬立ち止まっってぴょんしーを見た。


「コイツらを巻き込んで悪いと思うなら、その種、ちゃんと育てて花咲かせろよ?そして来年からはイタズラしにじゃなく、遊びに出て来い」


 そうして、イオは部屋を出て行った。


 ぴょんしーは大粒の涙を目に溜めながら、何度も頷く。


 それと同時に、12時を告げる柱時計の音が鳴り始め――ガラス瓶とぴょんしーの姿は光の粒子となって消えていった……


「妖精界に帰ったんだね」


 翠がポツリと呟くと、コウは静かに頷いた。


「あの子きっと、虹水泉の花を上手く咲かせてくれるよ」


 コウの言葉に彗はふと、思い出したように呟く。

 

「気に入った相手を妖精界へ連れて行っちまうってのは、あくまでもただの噂だな。あんなに素直に謝って泣くんだから」


 そうして三人は静かにぴょんしーが消えた跡を見つめていた。


「さぁ、みんなもそろそろおやすみなさい?」


「そうじゃの、今日は一日中頑張ったんだからゆっくり寝る方がいい」


 ツキとギンが笑顔で静かにそう言い、三人は頷くとそれぞれの部屋へ向かった。


 ダイニングを出ると、廊下の窓からは丸い月の明かりがそっと……差し込んでいた――


~END~

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