Trick or Treat 5


【 Trick or Treat】 5


 

 森からコウの家までは乗合馬車や交通機関を使えば早いが、今夜はハロウィンという事もあり、イベントなどでの安全を考慮して全て一時的に止まっていた。


 距離的に走って帰ると一時間くらいかかる。


 全員黙々と走っていたが、案の定――アケがフツリと立ち止まってしまった。


 翠が慌ててアケのところまで引き返す。


「アケさん?!」


 走っていた全員が一旦立ち止まった


 アケの息は途切れ途切れになっており、汗がポタポタと日たいから流れ落ちていく。

 

「……ハァ、ハァ……す、みません。私の事は構わず、先へ行って……」


 無理矢理声を出そうとして、余計に息が上がる。


 肩に乗っているぴょんしーも、心配そうにアケを覗き込んでいた。


「置いていくって、アケさんを置いて行けないよ」


 コウの言葉に、アケは首を横へ振った。


「多分、元に戻る方法が……コウ君だけでも」


 言葉が途切れ途切れで続かないが、元に取る方法が家にあるなら、コウだけでも先に行って欲しいのだろう。


「センセイ、あんたほんと弱いな。今回は特別サービスだ、こんなの普通は金取るぞ?舌噛むから大人しくしてろよ……

っと、案外軽いな……」


 足音が近づいてくると、イオの声と共にいきなりアケの体が持ち上がり、視界が高くなる。


「?!」


 イオはアケを背中に背負うと、そのまま走り出した。


「イオ君?!」


「担いだ方が良かったか?どっちにしても、あんたが家に行かないと、今日一日のみんなの苦労が水の泡になっちまうだろ?

オレの休みも無駄に終わっちまうのは嫌だからさ」


 そうして再び、全員でペースを上げて走り出した――



 家に着いたのは丁度、23時になったところだった。


 玄関ホールに入ると、物凄いマッチョなウサ耳の姿が見えた。


「じいちゃん!!一体どういう事?!」


「ワタシはツキおばあちゃんよ」


『………………ば、ばあちゃん?!』


  思わずイオが背負っていたアケを床に落としたくらいには、それはかなりの衝撃だった。


「いたた、イオ君ひどい……」


「アケセンセイ、わりぃ……いやでも、じいさんじゃなくてばあさんって……」


 流石のイオですら呆気に取られてしまう程、目の前にいるじいさ……いや、ばあさんは筋骨隆々でマッチョだった。

フワフワのうさ耳がピョコピョコしている。


 翠が思い出したように目を見開いた。


「今朝、聞こえてきた悲鳴は四箇所からだった、って事は……ツキばあちゃんもぴょんしーのイタズラで?!」


「えぇ、そうなの。目が覚めたらこの姿で……恥ずかしくて、あなた達の前に出て行けなかったのよ。その代わり、イタズラを解く虹水泉の花の場所を知っているから夜になったらすぐに花を摘んで粉にしていたら、あなた達がいなくなっているし……困ってしまって」


 品の良い仕草で頬に片方の手を当てているが、どこからどう見てもじいさんでしかない。


「ギンさんに聞いたら、ぴょんしーの好きな事をさせれば魔法が解けるかも?って言って外へ行かせたって言うし、適当な嘘を孫達に教えないで?って言って説教しておいたから、もう大丈夫よ」


 そう言っているうちに、奥からマッチョなうさ耳の婆さんが姿を見せた。


「え?ばあ――いや、じい、さん……?」

 

 イオが再度固まった。


「兎に角、時間がないわ。さぁ、みんな集まって」


 床に座り込んでいたアケを翠が手を引いて起こし、コウ・アケ・ギン、そしてツキが輪を作って寄り添うと、ツキが手に持っているガラス瓶に入った虹色に輝く粉を頭上から振り撒いた。


 粉はキラキラと煌めきながら四人へ降り注ぐ。


 すると、一瞬部屋中に眩い光が溢れて四人が包み込まれ――


 光が消えた後には、元に戻ったコウとアケ、ギンとツキの姿が現れた。


「うわ?!待って?!私ちょっと着替えてきます!!」


「オレも!!」


「ワシもじゃ」


「あら?ワタシも」


 四人は一斉にそう言って各自の部屋へと駆け込んだ――



 * * * * * * * * *



  四人が着替えている間、イオがキッチンを借りて全員分のコーヒーを淹れ、残った三人でひと息ついていた。


 アケが着替えている間、ぴょんしーは虹色の粉がまだ沢山残っているガラス瓶の周りをふわふわと浮いていた。


「お待たせしてしまって……」


 そう言って、最初に入ってきたのはアケだった。


 本来の姿に戻ったアケは、ゆったりしたルームウエアの上下を着ている。


 辺りを見回してぴょんしーを見つけると、そっと虹水泉の粉が入ったガラス瓶を手に取る。


「ねぇ?ぴょんしー……君は最初から、この粉が欲しかったんじゃないの?さぁ、自分で話してごらん?」


 そう言うと、アケは瓶の蓋を開けてぴょんしーに虹水泉の粉をひとつまみ差し出す。


 ぴょんしーはそれを嬉しそうに受け取ると、一気に飲み干した。


 すると――。


 ぴょんしーの淡い虹色の羽が、見事な濃い虹色の輝きを放った。


「もう、声が出るよね?」


 アケの言葉に、何故かぴょんしーは目に涙をいっぱいに溜めて泣き始めてしまう。


「ごめんなさい……ごめんなさいい……」


 小さな声でそう言ってしきりに泣いてしまった小さな妖精を、アケはそっと人差し指で涙を拭ってやる。


「私達にイタズラ魔法をかければ、もしかしたらイタズラを解くために虹水泉の粉を作って貰えるかもしれない――そう、思ったんだね?」


 すると、ぴょんしーはコクコクと頷いた。


「どう言う事?」


 いつの間にかアケの傍へコウが来ていた。


 やはり着やすそうなルームウエアを着ている。


 その後ろにはギンとツキも来ていた。


 アケは宥めるようにぴょんしーの頭を指で静かに撫でながら、説明をし始めた――

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