第18話  私の執筆家デビュー

書店のポップを描く傍ら、毎週一本のエッセイを書き編集者に見せに行く生活が始まった。

題目は自分で自由に決めて良いということだった。

多分、そこにも編集者の思惑があり、私が何を見て、何を選び、何を切り取るか。

その辺りのセンスも見極めたかったのだと思う。


エッセイとは作者自身が感じたこと、体験したこと、思ったことなどを文章にまとめる。

いわば日記と感想文の合いの子のようなものだと教わった。

言われて始めて見たものの、最初はほぼ、日記か「〜が良いと思った」など子供でも書けるような作文だった。

作文ならまだ良い方で、無理して書こうとするあまり話がまとまらず、何を言いたいのか全くわからないものばかり。

そのあたりを添削してもらうのだが、少し上達すると今度は背伸びして、筋の通らない不自然な文章になった。


そんな私への指導は続いた。

何となく気がついていたが、私にだけ特別熱心に指導していた訳ではない。

私が原稿を持ってくるので添削指導してくれるだけで、特に作家に育てようなどとの目論見はなかったと思う。

やはり編集者になっただけあって、文章が好きなのだ。

だから、誰のどんな文章でも読む。

そして仕事柄気になる点は注意してくれるし、指導もしてくれた。


編集者のところへ原稿を持ってくる卵たちの中では意図せず優等生だったので、上達も早かった。

特にデビューしたい訳ではなかったが、私はその編集部の出している女性誌のライターに抜擢された。

私はますます忙しくなった。


初めての取材は神奈川県のグルメ特集。

三省堂のアルバイトを週3日に減らし、残りの日数を取材に充てた。

締切まで一ヶ月。

私は毎日のように横須賀線に揺られ横浜、横須賀、鎌倉、三崎…と、神奈川の街を歩いた。

私は書き上げた原稿を直属の編集部ではなく、いつも指導してくれた編集者の元へ持っていった。

私の文章を知っている人に見てもらいたかったからだ。

彼は、私の原稿に赤ペンを入れようとして手を止めた。

その代わり

「視点は良いよ。メジャーどころ6割、マイナーどころ4割。その4割に君らしい視点があるよ。すぐに原稿チェックしてもらうといい。さあ!これからが大変だぞ!」

直属の編集部に原稿を持っていって、その大変さの意味を知った。

チェックを終えた私の原稿は一面真っ赤だった。


ーー書き直してまた持ってきて。

と直属の編集者は言った。

だが、取材先の変更などは一切なく、私が選んだ店、場所はノーチェックで採用された。

しかし文章は何回書き直ししたかわからないほど書いた。

たかだか4ページの原稿を仕上げるのにどれだけの労力が使われているのか。

プロの洗礼を受けた気がした。

そんな思いでやっと書き上げた原稿。

雑誌発売日に三省堂の店頭でページをめくってみる。

記事の最後の行に私の名前があった。


to be continue…


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偶然から始まる、必然の物語 shosuke @ceourcrpe

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