再会の迷路Ⅲ

 「それがいつの事だったのかはもうはっきりしないがかなり昔の話だ。」


アルは深呼吸をする。


「『ある山奥の洞窟から一人の男が現れた。男は山裾の村に下り、多くの子供を自分の住む洞窟に連れ去ると己の研究のために虐殺した。洞窟からは血が流れ、村までその血の匂いが漂ってきた。子供たちの親は子を亡くした辛さに毎日毎日嘆き悲しんだ。

すると男はその声が煩わしいと今度は村に自分の妖術で伝染病を流行らせ、作物が育たないように呪いをかけた。

村人たちはとうとう対抗しようと立ち上がり、ある日の夜男が寝たのを確認してから洞窟の住処に押し入ってその首を刎ねた。

刎ねられた男の首は体を離れて浮き上がると、呪いの言葉を延々と唱えながら湖の中へと姿を消した。

それから男の呪いによりさらなる災いが村に降りかかるようになり村は時を移さずして滅びることとなった。

命からがら村から逃れた人々はあの男はきっと悪魔だったのだ、と囁きあった。』」


話を終えるとアルはぽきっと枝を折り、片方を再び火に焼べた。


「次期女王が悪魔の子と言われる理由とその話はどうして関係してるの?」

「…それからその悪魔と呼ばれた男と似た容姿の子供は必ず周りの人間を不幸にしてきたんだ。だからその悪魔と似た容姿の子供はみんな悪魔の子と呼ばれて恐れられるようになった。…そして次期女王も類にもれず周りの人間を何人も殺してきた。だから恐れられてるんだ。」


アルを赤い光が照らしだす。


「似た容姿っていったい…」

「ああーーーーー!!!」


エナの声はカリタスの叫びにかき消されてしまった。


「なっ…なに?」

「あれです!」


アルの後ろの石垣についた苔が暖かな赤色に光っていた。


「赤く光る苔なんて初めて見ました!…何でしょう?バクテリアの影響なのかな?」


カリタスは興奮した様子で立ち上がり、ピンセットで苔を採取すると小さな瓶にそっと入れた。

すると不思議なことに赤い光が苔の中心部に吸い込まれるようにゆっくりと消えていった。


「消えた…?」


カリタスは再びピンセットで苔をとる。するとやっぱり赤い光は消えてしまった。


「この苔…。」


アルは赤く光っている苔を追って石垣を左折する。


「ずっと続いてるぞ。まるで…」


—まるで道を示しているようだ。


それは小さな希望だった。エナたちは慌てて荷物を纏めると苔が赤く光っている方の道を選んで進んでいった。

赤く光る苔はどこまでもどこまでも続いていく。

いつもなら入り口に戻っている頃だったが道はまだ続いていた。


—進んでいる


エナは確信が持てた。今、自分たちは前に進んでいると。

どれぐらい赤い苔を追っただろう。

十分、いや二十分ほどたった時、ようやく出口が見えた。

エナたちは無事迷路を抜け出せたのだ。


「空気が澄んでる…気がする!」

「ああ!気持ちもすっきりした…気がするな!」


エナとアルは空気を肺いっぱいに吸い込みながら伸びをする。


「いったいどうして、採取すると光が消えてしまうのでしょうか?石垣の成分が関係している…のなら全ての苔が光っているはずですし…もう一度、確認しないことには夜も眠れません!」


再び迷路の中に入っていこうとするカリタスの鞄にしがみつく。


「ばかばか、やめなさい!ようやく出られたんだから再び迷子になりに行くようなまねしなくていいの!」

「赤い苔が導いてくれてるから大丈…夫…ってあれ?」


いつの間にか苔の光は消えかかっていた。


「何で…。」


抜けてきた迷路の方を見ればうっすらと明るくなってきている—もう夜明けのようだ。


「陽の光と関係してる…のかな?」

「ますます!ますます興味深いです!やっぱり一旦引き返して確認しなくては!」

「いいの!もういいの!」


カリタスを半ば引きずりながら迷路より引き離す。

夜中歩き続けたエナたちはもう限界だった。

焚火を起こすと、寝袋にくるまって我先にと寝始める。

エナは念のためカリタスの寝袋に大きめの鈴をつけておいた。

これで、彼女が起きて懲りずに迷路に行こうとしたらすぐ気が付ける。(まあ、さすがに道しるべのなくなった迷路に引き返すほど馬鹿ではないと思うが)


エナは安心してぐっすりと眠りについた。

慣れてくる、とカリタスは言っていたがなるほど確かにエナは最初ほど右腕の痛みを感じなくなっているようだ。


—ガランガランガラン


大きな鈴の音に驚き慌てて目を覚ます。

もう日は高く登りエナたちを見下ろしていた。


「なっ…何!?」


状況を判断できずに寝ぼけながら周りを確認する。カリタスが寝袋の上で正座していた。


「こいつだよ、こ、い、つ。」


ふわあっと欠伸をするとアルはカリタスを指さす。


「今、また迷路に戻ろうとしたんだよな?」


アルはギロっとカリタスを睨む。


「いえ、その…もう昼だなーって目が覚めただけです。」


人差し指と人差し指をつんつんしながらカリタスは言い訳をする。


「ほっほーん、ならなんで瓶とピンセットを手に持っていたのかな?しかも鈴を鳴らさないように慎重に動いたりしちゃってよぉ。」


口調が堅気のものじゃない。


「いや…それは…その…。あははは。」

「とにかく、迷路に行くのは禁止だ!苔はその瓶の中に入ってるので我慢しなさい!」

「そんな殺生な…。」


ずーんと沈み込むカリタスの頬をリキが舐める。

こういう時、カリタスは本当に手のつけようがなくなるので困ったものだ。

エナはため息をつきながら起き上がると自分の目に飛び込んだものに衝撃を受ける。


「ねえ、あれ…村じゃない?」


西、連なる山々の麓に小さく村の影が見えた。





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