第3話 将来と不安

将来のことを考えると、今死んでも未練はないと思ってしまう。

けれど同時に、何か大きなものに押し潰されるような不安を抱える。その不安は形を持たず、雲のようにふわふわしているのに、金属のように重い。頭の上にずっしりとのしかかり、考えることを放棄したくなる。実際、何度も放棄してきた。


それでも、この曖昧な雲を具体的にしてみるしかない。私が抱えているのは、お金の不安だ。足りなくなるのではないかという思い。奨学金の返済もある。だが、私は結婚をするつもりがない。だから子どもにかかるお金は不要だ。借金も奨学金だけ。五十歳くらいまで働けば、なんとかなるだろう。返済が終われば、その先は死んでもいいと思える。老後のことは、長生きするつもりのない人間が考えることだ。


五十年という時間は、やはり長い。けれど、何をするかよりも、何をしないかを選ぶ方が自分には合っている。結婚をしないことで、子育ても、親戚づきあいの煩わしさもなくなる。そう考えると、人生の難易度は意外と低いのかもしれない。


あれ、思っていたより楽なのかもしれない。

ふわふわした雲は、少しだけ軽くなった気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シコウとしこう 秋野 叶真 @akino_kanoma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る