キスしたら終わる小説の主人公に選ばれました

色葉充音

キスしたら終わる小説

 おめでとうございます! アイラ・クロフォードさん、あなたは、『キスしたら終わる小説』の主人公に選ばれました!


 白い壁と白い天井、白い床に囲まれている4畳ほどの空間。目の前の壁にはでかでかとゴシック体でそう書かれている。


「……いやなんですかこれ!?」

「どうやら言葉の通りらしいですね」


 そう言った銀色の長い髪を一つに結んでいる男性は、わたしの婚約者様だ。一緒にいてくれるのがものすごく心強い。


 状況を受け入れるのが早すぎるとは思うけど、これまでのウィル様を考えればそれも納得できる。突然、「ここ、乙女ゲームの世界だ……」なんて言ったわたしの話を信じてくれたのだから、これくらいは朝飯前なのかも。


「……ウィル様、わたしはどうすればいいと思いますか?」

「そうですね……」


 ウィル様は考え込むように腕を組み、突然にこりと笑みを浮かべた。どうしてだろう。この笑みにはとても見覚えがある。……見覚えがあるどころか、人を揶揄う時のそれで間違いない。


 大抵この後は爆弾発言が待っているんだけど、さて今回はどんなものが来るのか……。


「アイラ、私とキスしましょう」

「……え?」


 き、聞き間違い? ウィル様、今、キスしましょうって言った気がするけど。ま、まさかそんなわけは……。


「おや、聞こえませんでしたか? アイラ、私と、キスしましょう」

「ゆ、ゆっくり言い直さなくても聞こえています……!」

「ではキスしましょうか」


 頭の後ろと頬をしっかりと固定されて、ウィル様のご尊顔が近づいてくる。心臓がドキドキと加速して、頬には熱が集まってくる。


 ウィル様と婚約者同士になってしばらくが経つけど、まだ手を繋ぐくらいしかしたことがない。わたしにそういう経験が全くなくて、しかも、ウィル様がかっこよすぎるからという理由で、そういうのは待ってもらっていた。


 い、今、ですか? こ、心の準備が……! 思わずきゅっと目を瞑る。


 ……だけど、いつになっても唇に触れるものはなくて、そっと目を開けた。すると、5センチメートルの距離でウィル様と目が合った。


「うぃ、うぃるさま……?」

「貴女、キスされたくないのであれば、目を瞑ってはいけません。それは『受け入れる』と捉えられてしまいます」


 どうしてかため息を吐かれてしまった。


「で、でも、すごくドキドキしますけど、されたくないわけじゃない、ですから……」

「……っ、アイラ」


 余裕を失ったような声がしたと思ったら、唇に柔らかいものが触れる。

 ——わたし、ウィル様とキスしてる?




【キスしたら終わる小説】


   —end.—

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