限界ギリギリの深夜コンビニ店員(1分で読める創作小説2025)

片山大雅byまちゃかり

午前二時

「お客さん! タバコ忘れてますよ。って、そうか。今客いないんだった」


 ワシぁコンビニ店員の達人。達をたちと読み、人をじんと読んで『たちじん』だ。


 今は過疎地域の深夜コンビニという戦場(いくさば)の足軽をやっている。


 気が狂いそうだ。否、すでに狂っているのかもしれない。そんなことはどうでもよかった。今重要なのは、コンビニでバイトしているという事実、それだけなのだから。


「いらっしゃいませ! 違った、虚空だった」


 過疎地域のコンビニに立ち寄る客は滅多に居ない。必然的に何もしない時間が出来ていた。


 何もしないというのは意外にも苦しいことだ。娯楽に縋れないし、嫌なことすらも大抵起きない。ただ出来ることは、来る保証のない幻のお客さんを待ち続けることだけ。


「いらっしゃいませ! 予行練習終わり!」


 人はたいてい非現実を求めるものだが、そんなことは滅多に起きない。だから非現実と呼ばれているのだろう。


 ふと思ったことが一つ。非現実は自らの手で起こせるのではないかと。思いついたら吉日。早速実行してみることにした。


 例えば、非現実を逆さに読んでみると、つじんげひになる。つじんげひ、羊のブランド名に出てきそうな名前だ。目論見どうり、非現実を作ることが出来た。学会に提出してノーベル平和賞を取れるかもしれない。


 自ら非現実を作り出す『非現実の法則』の成立である。概念を創り上げたワシは神になった。今だったらなんだって出来る気がする。だって未来には、希望しかないのだから。


「……フゥッ」


 さっきから何をやっているんだろう俺。それにワシという一人称を贅沢に使いやがって。ワシという一人称を使う人は創作の中にしか存在しないのに。


 そもそも今は勤務中である。俺が神に選ばれた存在だとか、考えるのは無駄なことだ。俺は無駄なことを考えるのは辞めようか考えた。


 否、既に俺は無駄なことを考えるのは辞めていた。


 何故なら無駄なことを考えるのは無駄なことだからだ。無駄な時間を無駄な思考で過ごし貴重な時間を無駄にする。非生産的だ。


 思考することすら無駄に思えてきた。もう思考することも辞めよう。もちろん思考しようと思考するのは必要無い。思考しようかを迷うことも無駄だ。


 言葉を考えることすら億劫になってきた。何もかもが無駄なのだ。


「おいテメェ! タバコまだか?」


「……タバコ? イミフメイ」


「アアン!?」


「オマエバカ。クタバレ」


 このあとの記憶は無い。

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限界ギリギリの深夜コンビニ店員(1分で読める創作小説2025) 片山大雅byまちゃかり @macyakari

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