ティアドロップ

 エッジがいなくなって8カ月が経った。


 アーケードにあるカフェで仕事の依頼主と商品のロゴの打ち合わせをして、無事に話がまとまってカフェを出る。


 アーケードを歩いていくうちに指先が冷えてきた。手を口に当てて息を吐く。シャンシャンとベルの音が鳴り、讃美歌が流れてきた。


 ――茉莉、愛している。


 あの日からずっと心に穴があいた感覚がある。エッジは「俺のことは忘れろ」って言ったけど、そんなの無理。あの時は悲しみに打ちひしがれていたけど、今は怒りの感情の方が強い。


 勝手に自宅に入り込んできた癖に急にいなくなって……しかも、生死が分からない状況だなんて。


 正直に言うと、あれからエッジのことで頭が一杯になっている。もし生きているのなら、どんな手を使ってでもいいから……教えてほしい。


 アーケードの入り口でクリスマスマーケットの会場が見える。そうだった、今日はクリスマスイブだ。


 私は両腕をさすりながら和カフェの黒板に目を――抹茶ラテの文字を見て胸が痛くなった。


 ――だめよ。もう忘れないと。


 いい加減に切り替えないといけない。もうエッジと会うことは叶わないのだから……。


 振り払うように入口の横断歩道に目を向けて――。


 その瞬間、衝撃があった。瞬時に誰かとぶつかったと分かり「すみません」と発した。


 短い沈黙があり、視線を上げると白いトレンチコートを着た黒髪で小麦色の――。


「えっ?」


「茉莉、なんでそんな怖い顔をしているんだ。クリスマスイブなのに」


「エ、エッジ?」


 エッジが澄んだ青い瞳で頷いた。


「よく分かったね、茉莉」


「ちょ……直感よ」


「俺、あれから色々あって、組織からも見限られて死んだことになっちゃってさー」


 ――なんなのよ。


「国にも帰れないし、居場所がないみたいな。あはは」


 ――あんなに心配させておいて、本当に自分勝手な奴……。


「まあこの街に来た一番の理由は、茉莉のことが忘れられなかったからだけどね」


 エッジがウインクをしてニヒヒと笑った。


 ――でも、よかった……。生きてたんだね……。


 その瞬間、なんだか耳鳴りがして鼻がツーンと熱くなってきた。


「ま、茉莉?」


 エッジの澄んだブルーの目が見開く。


 ――ああ、この感覚……。


 周りがザワザワしている。


 ――これが涙だ。

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ティアドロップ 槇村まこと @makoto-makimura

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