調査開始
「君の国は感情豊かな日本を目指すんじゃないのか?」
次の日、左頬を赤くしたエッジが緑茶をすすりながら不満げな視線を向けてくる。
――茉莉、会いたかったよ!
エッジが本当に約束の時間に来たので「ぶっ飛ばしてやる!」とドアを開けたら、急に抱きしめられて無意識に平手打ちしていた。
「あのね、日本でそれをするとセクハラになるの。通報されて逮捕されるから気をつけてよ」
「セクハラ? 理解できないな。挨拶でハグをする国もあるというのに」
全く悪びれていない……。
それぞれの国に文化があるのは理解するけど、本当に警察に突き出してやりたい。でも、昨晩のベランダの手擦りで膝を抱えるエッジが頭に浮かぶ。
――茉莉、君のお涙を頂戴したく参上したよ。
こいつは普通じゃない奴だ。迂闊な行動をするとこっちの身が危ないかもしれない。
エッジが目の前にある八ツ橋を指でつまみ、顔をほころばせながら口を大きく開けた。目を細めて八ッ橋を堪能している。
今日はグレーのパーカーにジーンズという至って普通の服装だ。
ペロリと舌を出し、緑茶が入ったマグカップを手に取るエッジ。完全にリラックスしている。私は口を尖らせて腕を組む。
エッジは『セリスグラス』という国から来たと言っているが、そんな国は聞いたことがない。
ネットで調べても検索ワードに出てこなかったし、この男の素性は謎のままだ。昨晩の様子からして母国のことは口を割りそうにないし……。
「じゃあ茉莉、さっそくだけど映画に行こう」
エッジが立ち上がって手を差し伸べてきた。
「映画?」
「チケットを2枚分用意してある。茉莉はここのところ仕事が入っていないから暇だろ?」
片方の口元を上げるエッジに対してイラっとした私は、彼の手をおもいっきり叩いた。
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