選ばれし者

「つまり、私は対象者に選ばれたってこと?」


「ピンポーン! 君はAIによると涙を流しやすい数少ない体質を持つ人間なんだってさ。えっと、1000万分の1だったかな。要は、茉莉は涙を流す素質があるってこと」


「うそ、涙を流しやすい体質って……そんなの誰でもあるでしょ? そもそも、私は子どもの頃に泣いた記憶があまり残ってないのよ」


エッジが人差し指を立てて左右に揺らす。


「過去はそうだったかもしれない。でも、今はそうじゃないんだ。環境、生活習慣、体質、涙腺……総合的にAIが導き出した結果だ。君は選ばれし者なんだよ」


 エッジによると、仲間が世界中に散らばって極秘行動しているようで、日本にはもう一人派遣されているらしい。対象者の条件としては、現在一人暮らしをしていて涙を流しやすい体質であることだ。


「日本では他にも該当する人がいたんだけど、茉莉が美人だったから、俺、この人がいいでーす! って、志願したんだよね」 


 こ、こいつ、なんて軽い男なの。


「盛り上がっているところ悪いけど、私に何をするつもり? 人体実験とか絶対に嫌」


「茉莉が想像しているような実験はしないよ。普段通りの生活をしてもらって構わない。俺は君と行動を共にして、感情の動きや身体の反応をインプットするだけさ」


「ちょっと……あなたと行動を共にするって、私も命を狙われるかもしれないじゃない。今すぐ出て行ってよ」


「大丈夫、君に危害がいくことはない。他国たこくの人間を殺めてはいけない法律だからね。国の法律は絶対なんだ。まあ俺は国内の人間だから消されちゃうけど。あはは」


 だから、あははじゃないでしょ……。楽観的過ぎる。エッジは自分がやっていることを自覚しているのだろうか。


「そういう訳で今日からよろしく。寝ている時も調査したいからさ」


 パチリとウインクするエッジ。


「最低。嫌よ。帰って」


 私は冷たく拒否した。


「えー、それだと俺、国に帰れないよ」


 だだをこねる子どものようにエッジがテーブルにしがみついたけど、私はひっぺはがして彼を玄関に引きずっていった。


「分かった! 茉莉に嫌われたくないから今日のところは帰るよ」


 もう嫌ってるっちゅーねん……と思いながら玄関を開ける。


「茉莉! 俺、隣の空き部屋にショートステイするからさ、また明日12時に来るから自宅にいてよ!」


 エッジが振り返ってじゃらんと鍵を鳴らす。どこまで用意周到なのよ。


「じゃあせめて玄関から入ってこい! ばか!」


 私はエッジを追い出してドアを閉めた。

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